竪琴の山


紫とオレンジ色を混ぜたような西の空は薄いベールのような薄暮で

複雑な暗灰色に変わろうとしていた。

意気揚々とドラゴン退治でもする勇者気分でガレドビを旅立ってから、

20回目の落日だった。

そして、自分が勇者には程遠いと失望してきた18回目の落日でもあった。

焚き火の小さな炎が消えないようにしながらアロンは額にかかった髪を

羽虫でも払うように乱暴な手つきでかき上げ、何度目かの苛立ったような

溜息が焚き火の中に溶けていった。

「アロン。おい!あの山の稜線の向こうが『月の国・マティア』だと言ってたよな…それで?後どれだけ山を越えたら、その月の国とやらに行けるんだよ?」


さっきから、お腹が空いて倒れそうなザクートは焚き火の火を見ながら不機嫌なアロンに 大きな声をかけた。


「後、一つ峠を越えるだけだよ。忘れられた村の長がお前に言ってたじゃないか」

「そうだったかな?腹が減りすぎて物忘れがひどくなったみたいだ」

黒猫のアシュルの鼻を、乱暴な言葉とその大きな体とは不釣合いな、

節くれの無い綺麗な小指で撫ぜながら、ザクートはアロンと

同じような溜息をついた。

「朝の来ない国だって、ガレドビの太陽が消えてしまうってか?…アビシャクのじいさんも長生きしすぎて、ボケてきたんじゃないか?……おい、聞いてんのかよ」

アシュルと同じ柔らかくて、長く黒い髪をもてあそんでいる黒猫を

優しい藍色の目で見つめていたザクートは、黒猫を見つめる同じ眼差しで

アロンの方に振り向いた。

「アッ!痛っ。アシュル、腹が減ったからって俺の指を齧るんじゃない。アロン、俺たちも晩飯にしないか?お前も腹が減っているせいか苛ついてそうだし」

アシュルは急にザクートの小指に小さな牙を立てると、

緑の瞳を光らせながら足音も立てず、片方の耳に付いた

銀の小さな鈴の音だけを残して草むらの中に消えて入った。

アロンはアシュルの消えて行った草むらを見ながら

最後になった食料の乾し肉と、最後に通った村で分けて貰った

葡萄酒の入った皮袋をザクートに投げつけた。

「最後の晩飯だ、これからはアシュルの餌を別けてもらうんだな」

「おい!マジかよ。マティアを探すよりも大問題じゃあないか!」

「お前が大飯食らいだから計算より早く食料が無くなってしまったんだぞ!」

ここ数日聞かなかったような大きな声でアロンは怒鳴った。

「この体を維持するには、日に5度は飯を食わないと動かなくなるんだよ。ところで、お前は食料が無くなったんでイライラしてんのかよ」

最後の食べ物だからと食べ残す事を知らないザクートは、

まるで誰かに取られるみたいに、かたい乾し肉を千切っては口に入れ

4・5回咀嚼しただけで葡萄酒と一緒に胃の中へ流し込んだ。

最後の一口になった乾し肉を、名残ほしそうに見ていたザクートは

覚悟したように、腰にさげていた葦で編んだポーチの中に放り込んだ。

食事に行ったアシュルが狩りに失敗した時の為に。

ガレドビから西へ進み、

赤い砂漠を越え忘れられた村を過ぎて、竪琴の山の稜線を越えた

森の中にあるマティアは、馬で行けば10日もあれば辿り着くだろうと

アビシャクに教えられていたのだが…

2日目の夜に着いた赤い砂漠で砂嵐にあったアロン達は、愛馬のトロを

砂漠の砂の中に住む腹の空かせた赤黒い毛の幼獣モゲラの餌食になるのを

助けられなかったのだ。


アビシャクから、日が暮れるとモゲラは活動するので赤い砂漠には

入らないように注意されていたのに…。

「ザクート、日に日に太陽の昇る時間が短くなっていくのが怖いんだ」

不機嫌だったアロンが消えかけてる小さな火を突きながら呟いた。

「あの時、赤い砂漠でトロを助けられていたら……今頃は、マティアに着いてたんだよな。いや!そんな事より、僕のせいでトロが死んだんだ…この先、どんな事が起こるんだろうと考えるたら、怖くてしかたないんだ」

薄いベールの薄暮は濃い暗幕を引いたような空に変わっていた。

ザクートからは

小さな焚き火の火で影になったアロンの横顔しか見えなかった。

「なんだよ、お前の勇ましさは高い塀に守られた城の中だけだって事を告白してるのか?…勇者や英雄ってヤツは」

話の途中で『ポキっ』と乾いた小枝が折れる音がザクートの言葉を遮った。

「まぁ…、ココまで来て引き返せないだろ?後、一山越えたら月の国に着くさ。

それに、竪琴の山は精霊に守られた山だから心配する事はないさ。アロン」

『ハンナーの紋章』

ラウラがハンナーを訪れてから3日が経ったが、嵐はおさまる気配も無く

不吉な暗黒の厚い雲が今にも月を隠そうとしている。

嵐が吹きすさぶ日、誰にも見つからず城から行方をくらましたラウラを

探す侍女等は、森の中でハンナーに嵐から守られるように眠るラウラを

発見したが、意識も無く身体は驚くほど熱く苦しそうにうなされていた。


乾いた唇からは

できないわ、そんなこと私にはできない……

「ハンナーハンナー

泣いているようで苦しそうな声でハンナーの名前を繰り返すばかりだった。

急いで城へ帰されたラウラだったが、熱でうなされるラウラの意識は

いまだ戻らずにいた。


ラウラの部屋の窓から見える、今にも消え入りそうな月を見ながら国王は

「ラウラ、お前は大丈夫だぞ。お前の体の中には聖なるハンナーから与えられた命が受け継がれているのだから慈悲深いハンナーがきっとお前を助けてくれるだろう」

国王は自分に言い聞かせるように呟いた。

熱いラウラの手を優しく撫で、汗で額に張り付いた黒髪を

そっとあげようとした時。

今まで無かった痣のような額の赤い文様に気付き驚くのであった。

「おお、これは!ハンナーの紋章がラウラの額に……お前が、本当にお前がハンナーの慈悲を受け継いだというのか。なんと言う事だ、まだ大人にもならぬと言うのにお前が目覚めた時は、この闇と戦う運命が待っているというのか」

国王は、マティアの空に不気味な雲がいすわった時から

マティアの古くからの言伝えが気になっていたのだ。

国王もその先代の国王から聞かされていた話。

「月に導かれ月の国に辿りついた祖先は月桂樹の慈悲と恩恵でマティアの国を築き平穏に暮らしてきたが、地の底に住む『暗闇の王エルアズラ』が太陽と月と大地をも自分のものにしょうと、暗闇の地底から現れた。太陽と月を封じ込め、全世界を支配しようと企んだ暗闇の王と闘かい『竪琴の山』に、暗闇の王エルアズラを『光と影の鏡』で封印したのだ。封印で力を使い果たしたハンナーは、『光と影の鏡』の使い手を残した。マティアの継承者にはハンナーの紋章が体に浮び、その選ばれし者にしか暗闇の王の力を封印する事が出来ぬ」

今では、今のマティアでは昔話のように遥か古の話だったのが、

それが自分の大切なラウラの身に起ころうとは……

この月の国から一歩も出たことも無く、小さなクモを見ただけで逃げ出し、

誰かが小さな怪我をしただけで自分が死にそうなくらい心配する、

そんな娘に何が出来ると言うのだ。

国王は震える手で

ラウラの額の紋章が消えてしまえば良いと念じながら何度も撫でていた。

『聖なる月桂樹』②

この数日前からの嵐が不安でならなかった、

この嵐のせいでハンナーの力が無くなり、精霊たちが消えてしまうって

騒いでることは、ハンナーの命が亡くなってしまう事を意味してるから…

闇に支配される事はマティアも私たちもハンナーと共に闇の彼方に消える…

そう考えてしまうと、どうしょうもなく不安でしかたないのだ。

ハンナーから離れると消えてしまうのが怖いように

ラウラはずーと抱きしめたままでいる。


「嵐なんかくるから精霊たちが怖がっていってるんだよね。そうだよねハンナー」


自分に言い聞かせるようにラウラは風の音に負けないよに大きな声で叫んだ。


「だって、お父様は大丈夫だって言ってたわ。怖がらずにおとなしくしていたら嵐もマティアから遠ざかるって、私がもっと小さかった頃にも嵐がきたけど少し月を隠しただけで過ぎ去ったって……だから、今度も大丈夫だよねハンナー。


ラウラは言葉では通じないハンナーと心で語りかけていた。

消えそうな月も、凍えそうな雨も、何もかも奪われそうな嵐も

ハンナーの温かいオーラに包まれていると、


「どうして不安になってしまったんだろう?ハンナーはこうして私を守ってくれているのに」


そう、思うと安心したラウラは母に抱かれる赤子のように

ハンナーに抱かれ眠りに落ちていった。


「ラウラ……ラウラ暗闇の王に見つかってしまうわ。暗闇の王に捕らわれたらこの世は支配され月も太陽も暗黒の闇に閉ざされてしまう……


「ううーん、誰?暗闇の王って何?太陽って何?」

深い眠りに落ちていたラウラの心の奥に声が聞こえてきた。

ラウラは自分が眠っている事を感じている。

「ねぇ、ハンナーでしょう!ハンナーの声だよね。」

眠ってるラウラの唇が少し上がり、それは微笑んでいるように見える。

羽根のように軽いハンナーの葉を風が揺らしているようで、

小川の上を歌いながら舞うそよ風のように心地良いこの声は


初めて聞いたってハンナーの声だと分かるわ。


と夢の中のラウラは自慢気だった。

「初めてだよね、ハンナーとお話が出来るのって!お父様が聞いたら、きっと驚くわ。お父様だってハンナーとお話したことがないんですもの」


「ラウラ、聞きなさい邪悪な魂が闇を伴って私を探している。私の力を封じ込めて闇の支配者になろうとしている暗闇の王エルアズラの封印が解かようとしている


「ハンナーどうしたの?ハンナーが何を言いたいのか分からないわ!さっきから怖い事ばかり言ってるもの」

ライラはイライラしながら心の声で言った。

「大丈夫よライラ、眠りから覚めたら嵐も過ぎ去ってるわ。妖精たちもまた、歌いだすわよ。安心しなさい」と言ってほしいのだ。


「ラウラ、私には何も出来ないの月を守るのよ。マティアを守ってラウラ


ハンナーは何故、こんな話を私にするの?と思った。


「ねぇ、ハンナー。お父様なら皆を守ってくれるわ!私がお父様に話してみるから心配しないで


と言ってみたが、ハンナーはそれには答えてくれなかった。


「ラウラ、光と影の鏡を探すのよ。その鏡で暗闇の王エルアズラの邪悪な魂を映し出して月を、太陽を世界を救うのよ。それはライラにしか出来ないことなのよ」


初めてハンナーとお話が出来たのに…

どうして?どうしてそんな事ばかり言うの…


嫌だ!こんな夢は嫌だ!と言うように、

ラウラの寝顔は不安と悲しさの影がさしていた。


『聖なる月桂樹』①



滅多に嵐などこないマティアの月桂樹の森は不安で震えていた。

嵐だというのに空の上には陽炎のようで今にも消えそうな

琥珀の弓張り月がマティアを見下ろしている。


森の中にある「聖なる月桂樹」を目指して1人の少女が嵐に

飛ばされそうになりながら小川を渡り懸命に走ってる。

城を抜け出た時は、生暖かい風だったのがラウラの気がつかない

うちに風に操られる雨にかわっていてた。

少女は白いローブのような布を纏っているが雨に打たれ

身体に張り付いた様は少女のようでいて、神話に出てくる

女神像のように優雅で凛としている。


強い意志を持つ瞳は雨で塞がれそうになっていても、

今まで、雨が降っても消えることのなかった月が

頭上の厚くて黒い雲に消えそうになっていたが、幽かな月の光に

導かれるように少女の白い肌と対照的な黒髪が首筋にある黒子の上で

撥ねながら小道を我もの顔で駆けている。


少女は「聖なる月桂樹」(ハンナー)の前に来て、

やっと忘れていたかのように肺に溜まっていた荒い息を吐き出した。

ハンナーを抱きしめ


「大変なのよ!マティアが暗闇に支配されてしまうって精霊たちが騒いでるの。嵐がおさまる頃には月が消えて世界は真っ暗になり、ハンナーの聖なる力も消えて精霊たちも消えてしまうって


ラウラは嵐で揺れる月桂樹の葉を愛おしそうに見つめていた。

強い意志で光っていた緑の瞳は雨で洗い流されたように、

不安気で、幼い子供のように堪えていた温かい涙が今にも零れそうだ。


「精霊が言った事は本当なの?ハンナーの聖なる力が消えてしまうって


ラウラの冷え切った頬に涙が一粒落ちたとき、聖なる月桂樹ハンナーから

揺れるような温かい緑のオーラがラウラを包み込んだ。

ハンナーの温かいオーラでラウラの冷え切ってた頬に血が巡ってきたように

赤みがさしてきたころには、ラウラの心も落ち着いてきた。


ハンナーは

マティアの国が生まれる遥か昔からこの地をを見守っていたと言う。

昔、度重なる争いに敗れ、領土を奪われた祖先達は

月明かりに導かれるように、この森に迷い込んだ。

そこには、ストーンサークルに囲まれ不思議な光を放っている

一本の月桂樹の木が立っていた。

飢えと彷徨う不安と疲れに絶望し疲れ果てた先祖達は、

この月桂樹の木の下を安らかに眠る場所と決めた。

そして、最初にこの墓に入るのは飢えと寒さと絶望の流離の中で

産み月足りず母の魂と行き違うように生まれた領主の娘だった。


それは新月のように穢れない白い肌と濃緑のようにも見える

漆黒の髪を持つ余命幾許も無い月の妖精のような赤子を月桂樹の木の下に

横たわらせた時、一度も母の乳を吸う事も笑う事も無く逝かせてしまう

哀れな我子に永遠の眠りの呪文を領主が捧げた時だった。


不思議なオーラの光が幼子を包み込みはじめ、

しばらくすると儚い魂だった幼子が急に激しく泣き始めたという。

その光景を見ていた領主は驚き、そして幼子の魂の復活に喜び、

自らも生き延びる希望が湧いてきた。


緑のオーラの中、生まれてから初めて力強い泣き声を上げた

赤子の額には生まれた時には無かった複雑な文様が浮き出ているのを

喜びに興奮した父である領主は気付かなかったのだが


死に場所を求め彷徨っていた領主は、彷徨い疲れ果て生きるよりも

死を願っていたわずか数十人の民の前で

月桂樹の下に跪き「聖なる慈しみ」と叫び、ふれふすように地面にキスをし


「この地は月が導いてくれた地である。この木は我々に『聖なる慈しみ』を授けてくれたのだ!この月と聖なる月桂樹の下で、新しい国マティアを築こうぞ」


と、泣き叫ぶ幼子を抱き上げ宣言したという。

そうして、月桂樹の木は「聖なる慈しみ」の意味をつけ

『ハンナー』と名づけられた。


それから不思議な力があるマティアの地は、

外部から襲われることもなく、肥沃な土地は作物を実らせた。

死に場所を求め彷徨っていた者たちは「聖なる月桂樹」ハンナーの慈しみに

守られるように穏やかに暮らした。


ただ太陽は一度も昇らなかったが。


ラウラは「ハンナーの力」が何なのかは本当のところ知らなかった。

今まで、不安な出来事も無かったし、侍女のルーティから聞いたことのある

恐ろしい幼獣や意地悪で恐ろしいゴブリンも見たことは無かった。

こんな嵐も、ラウラが生まれてから初めてなのだから。


ただ、父である王が「聖なるハンナー」がマティアの平穏な日々を

見守ってくれている事に感謝し、毎朝、ハンナーのところに来ては

地面にキスをする感謝の礼拝にはラウラが生まれた時から、

必ず一緒に来ていたので、ハンナーは何でも話せる父の次に大切な友なのだ。


『必然な再会』②


私は、思い切って店員さんに聞いてみる。

「すみません、このドレッサーは売り物ですか?」

と、ドキドキしながら鏡の方を見る。良かった!消えてない。

と鏡がそこにあることに安心する。

「その鏡ですか?それは、まだ修理すんでないんですよ。鏡付きのドレッサーなら奥にもありますよ。」

彼女は、安堵したような笑顔でそう言ったけど、私は他の鏡はいらない。

「あのこのままで、この鏡が欲しいんやけど。お店のご主人に聞いてくれない?」

「はい、私が店のオーナーなんです。」

その若い女の人は軽く頭を下げた。

「あっ、ごめんなさい。あのこのドレッサーはいつからお店にあるの?」

聞いてみた私。

「これは、父が随分前にイタリアに行った時に買い付けてきたんですよ。

でも、何故かそのままにしてあって。今年から父の代わりにお店をすることになったので、これは修理してから売りに出そうと思ってたんです」


(イタリア!オルゴールと一緒やん)


「業者の人が引き取りに来るのを待ってるんですが、修理に10日ほどいただけたらお届けしますけど?」

若い店主は、

私が客だと分かって安心したのか、気軽に話しかけてきてくれた。

私が、アンティーク家具展で見たのは3ヶ月前だ!

でも、この鏡はその時この店にあったんや。

やっぱり、あの時の鏡じゃあなかったんやなぁ。ホッとしたようで、

残念な気持ちになってきたけど、

私はさっきの心臓の高鳴りが忘れられないでいる。


この鏡は「チラ」の鏡そう!

あの鏡の中の妖精のような子はチラって呼ばれてた。


「私、アンティークが好きで集めてるんやけど、こんなふうに修理されてない家具を探してたの。だから、このまま売って欲しいねんけど」

「でも、ずいぶん傷んでますよ。鏡もひび割れてるし、鏡だけでも入れなおしたらどうですか?」


と申し訳なさそうな顔をしながら若い店主は言った。


「この、ひび割れも買い付けの時からあったのかぁ?」

ひとり言のように言った言葉を聞いた店主は、

「そうですよ、コンテナがに着いたとき一緒に行ったんですが、その時からひび割れてたんですよ」

と教えてくれた。


どうしても、鏡はそのままでいいと言い張る私に呆れたような店主は、

思っていたよりも安い値段で「鏡」を売ってくれ、

近いからと私と鏡を家まで運んでくれることになった。



寝室の窓から見える月が映るように、

白昼夢だった鏡がこうして私のもとにきた。


この、鏡に満月が映ると不思議な少女と「チラ」と呼ばれた

赤た髪の少女の姿が現れて来るような気がする。



ラウラそっちに行っちゃダメぇーーー」「キャアーーチラーーー」


リアルな叫び声が頭の中でこだまして私は苦しくなって、

何かに縋り付くような感覚で目覚める。

(鏡がきてから見るこの夢は何度目の夢なんやろ?)と

首筋に光る汗を手で拭いながら鏡で顔を映してみた。

ひび割れた鏡に映る自分の顔と薄明かりに灯されたランプが

万華鏡のように映ってる。

「ねえ、ラウラって誰?チラって誰やの?」

真夜中に鏡のひび割れを、指でなぞりながら誰も居ない部屋で

誰かに話しかるように声を出してる姿は滑稽だけど、

これもこの夢を見たときにする儀式のようになってる。


暗闇の中、女の子が無数の松明に追われていくように

不思議な形の図形の中に追い立てられて

そう、そして女の子の頭上に

透けるような赤い髪の女の子が何か叫んでたんや!

あの図形はいったい何の形やろ?

ぶつぶつとひとり言のように呟きながらベットにもぐり込んだけど、

暗闇で思い出せるのは透けるような赤い髪と

ゆらゆらと揺れるのみ込まれそうな松明のような炎。

それは、オレンジの火というよりも紅蓮の炎だと思った。

そして、私を目覚めさせるリアルな叫び声。

透けるようなともう一度呟いて、ハッとする。

展示場の鏡の中の女の子は「チラ」と呼ばれてた。

じゃあ夢の中の女の子も透けるような赤い髪のチラが叫んだ名前の子は?

今度は鏡の方を見ながら「ラウラ」と小さく呼んでみた。

「ラウラ」ってあの不思議な少女にピッタリな名前だなぁと感じながら

私は眠りに落ちていきそうな鏡に映ってる自分の顔を見ながら

意識が遠のいていった。



『必然な再会』①


4月にしては肌寒い満月の夜。

引越してきた家の寝室から見える公園の桜は

風に残り少ない花びらを舞い躍らせている。

寝付けない私は月明かりの中で、ぼんやりしながら月を眺めては、

あの鏡の少女を思い出していた。

違う!あの不思議な月の妖精のような少女と鏡の中にいた赤い髪の少女。

リアルで白昼夢のような幻覚を見たあの日から

少女の事は忘れた事がなかった。

ほとんど葉桜になった桜を満月の月明かりを

寝室にある鏡に映し幻想的に見ている。

鏡に映る月を見つめていたら、彼女のあの低い声で呟いていた

「チラチラ」と言う声が心の奥に響いてくる。

リアルな幻想が現実と認めさせるには十分過ぎるこの鏡は、

あの時のひび割れた鏡なんやから。

私と鏡の2度目の出会いは、こんな出会いだった


私はこの日、

早めに終わった仕事帰りに引っ越した家の近所を散策して帰る事にした。

都心から少し離れた、静かで古い町が私の新しい住処だ。

ここに来て3ヶ月になろうとしてるのに、この町の事はまだよく知らない。

地下鉄の駅から歩いて10分もあれば家に帰れるけど、

今日はいつもと違う商店街を抜けて川岸を通って帰る事にした。

初めて歩く商店街は、冷やかしに覗くようなお店もなく、

土曜日の昼過ぎだというのに人の声も無く寂しげで

おまけにアーケードのせいか薄暗く何故か心細くなってくる。


(真っ直ぐに帰って本でも読めば良かったな)

と後悔しながら商店街を急ぎ足で抜けようとした時、私の目を光が遮った。

一瞬の眩しさが私の足を止め、目を細めながら光の元をさがしてみると

小さな雑貨店の店先に、古そうな鏡のドレッサーが置いてあった。

その鏡は私を誘うように

アーケードの隙間から覗く太陽の光を反射させている。

車道を挟んだ反対側の店に置いてある鏡のイタズラとわかり

(私って、なににビビッてんだか)と笑いながら何故かホッとする。

せっかく鏡に呼ばれたんやから冷やかしで覗いて行くかと、

雑貨店の方に歩いて行った。

店先に置かれていた鏡を見た私は胸の高鳴りと変な感覚に襲われる。

それは変に嬉しいという感覚だ。

そして、私の意志とは関係なしに指先はひび割れた場所をなぞってる。

(まさか?あの鏡がここにあるわけないよな…)

ここは、叫びそうになるところだが

どうやら、私の思考と行動は別行動してるようだ。

思い出したように、鏡に引き込まれるのを恐れるよう

慌てて鏡のひび割れから手を引っ込め、

鏡から一歩退く。


「早くこの鏡から離れて、家に帰るんよ!」と頭の中で声がする

「この鏡がまた私の前に現れるのは偶然と違うねんよ!」と心が感じる

「偶然は一度だけやねん、二度目は必然やねんよ!」と好奇心が騒ぎ出す。


そう、この鏡はあの時に見た幻想の少女が『チラ』と呼びかけていた鏡。
じゃあ、私はあの時と同じ幻覚を見てる?

そして、振り向いて鏡を見たら消えてる?
私は、鏡のひび割れた所を撫でながら

(この世の中、不思議な事あってもいいかなぁ)と思えてきた。

お店の中には店主しては若い女の子が、不思議そうな顔して私と鏡を見てた

鏡から視線を彼女に向けると、

私と目が合った彼女は慌てて商品を並べるしぐさになった。

そんな彼女を見ると、

あの時の私もあんな顔をしてたのかなって可笑しくっなた。

あの子も

鏡を振り返った時には「鏡と私」は消えてるのかもわからない

(この鏡が欲しい)

そう思ったのは、店の女の子を見た時か、鏡に触れた時だったのか?

この鏡が無性に欲しくなってきた。

あの鏡の妖精のような少女が連れて帰って欲しいと言ってるように

心に何かが聞こえてきた気がした。




『変な女の子』


私の好奇心はこの不思議に魅入らされている。

私の好奇心は、少女に近づく驚かせないよう、

そして、ひとり言のように声をかけた。

「ステキドレッサーやね鏡が割れてなかったら良かったのになぁ。あなたも、古い家具が好き?」

さりげなく、鏡越しから少女の瞳を見ながら話しかけてみる私。

ハッとしたように鏡にかざした手を止め、振り向いた少女は

おそらく私以上に不思議な表情をした。


「あのあなたには、この鏡が見えているんですか? 本当に、見えるんですか」

怯えたようでいて、すがる様な瞳で私の腕を強くつかむ。

そんな少女の反応に驚きながらも、冷静に考えてみる。


(えっ!本当に見えるって?妖精のような女の子といい、私も相当おかしいわ)


まぁ、そうは思ってみても今更、私の好奇心は後戻りが出来なくなってしまっている。


「今まで、気づかへんかったんやけどね。貴女が熱心に鏡を見ているのが気になってしもてね、アハハ。立派なドレッサーやのにねぇ。どうしてコレだけ、このまま展示してるんやろね?」


動揺すると出てしまう関西訛りで、答えになってない返事をする私。

きっと少女を見かけた時から既に動揺していたらしい。

少女はまだ私の腕を、強く掴んだまま私を見つめている。


「ねぇ、どうしたん?」


と、空いてる手で掴まれてる腕を指差して聞いてみた。

それが、合図で弾かれたように ハッとして私から一歩退き


「ごめんなさい」と頷くと、


頬に沿って動く緑かかった髪は間近で見ると光の変化で、

より一層深い色をしている。

とても、深い深い森を空から眺めているようで

複雑な森林を想像させる緑の髪に溜息がでた。


「それよりさ、その鏡と話してるようやってんけど?


と、笑いながら問いかけてみた。

少女は俯いたまま、片手を上げ鏡を指差して


「本当に?鏡が見えるんですか私とチラの姿も」


また、私を混乱させる彼女の消え入りそうな声が聞こえてきた。


「えっ、何言ってんの?見えるのって?ちゃんと、ここにあるやん、

あなたも、ちゃんとここに居てやん!」


からかわれてると思い、少しキツイ口調で少女を睨んで

そう言ってしまってから、後悔してる私。

そう、生真面目そうな彼女を見れば「からかう」なんて

出来そうもない雰囲気なんやから。

でも、彼女の事よりも私が気になってるのは鏡の中に映ってた女の子やねん。

ホンマは、疲れてて幻覚を見てしまったんだと思いたいけど。

もう一度、鏡を見たいけど赤いの髪をした女の子が見えてしまったら、

大声を出して叫んでしまうだろうそんなん、オカルト映画やんか。

私は、その類は大の苦手なんやから!!

出来る事なら、この少女に会わなかった事にしてしまおうか?

何だか、現実離れしたようなこの少女の相手をしてるのが可笑しくなってきて、この異空間から退散する事にした

「ごめんやで、きつく言ってしまって。でもね、その鏡も貴女の姿も皆にも見えてるよ、こんなに可愛い女の子が見えないはず無いものね。じゃあね」そして、私は鏡を覗こうとしている「好奇心」を抑えながら鏡から離れた。

会場の出口まで来た時、少女が気になり振り返ってみた。

でも、鏡のあった隅には1900年代らしいアールヌーボーの

ドレッサーがあり、古びた鏡と少女の姿は無かった。

そんな事だろうと何となく思ってた、だって現実と思えない話だから。

古い物ばかりの、この空間と

無意識に自分で考えてしまった空想の世界やったんやから

きっと……

『出会い』


久し振りにセットした目覚まし時計のオルゴールが鳴る前に私の手は、

無意識に隣のマクラを探す。

20年「お二人様」だった私が、少し前に流行った

「お一人様」になっても治らない癖だ。

別れた夫は、この異国の古いオルゴールの目覚ましが嫌いだった。

独身の時に行ったイタリアの骨董市で見つけた私の宝物は、

なんの飾りも無い無垢の木の箱を開けると蓋の裏には

オパールで縁取られた小さな時計が取り付けてあり、

箱の中はオルゴールになっている。

オルゴールが鳴り出すと箱の中の天使がのんびりと回転する。

珍しいオルゴール目覚ましは未だに柔らかな清んだ音色を

聞かせてくれている。

「誰が使ったかも分からない、こんな古ぼけたオルゴールの目覚ましでよく起きれるね。まぁ、オルゴールの音で君が起きれるとは思えないけど」

と、言われたけど確かにいつも夫に起こされてた私だった。

潔癖症の夫には

私のアンティーク好きは我慢できない事の一つだったらしい。

身軽な独身に戻った私は、さっそく生まれ故郷の大阪に転勤願いを出し

幸運にも4月の移動で大阪に帰れる事になった。

(どんな仕事をしているかって?)

それは、この物語には関係ないことなので書かない事にしよう。


日曜の朝7時。寝ぼけた頭の中をオルゴールの音が静かに沁みていく。

昨日、新聞の折り込み広告にデパートで

「アンティーク家具展」が開催されていると知り
アンティーク家具を新居で使うために探しに来ている。
人も疎らな会場は

古い家具にもかかわらずニスでピカピカに磨かれ手入れ、
アンティークと呼ぶにはきれいな家具が

西洋の貴族が住むような部屋に再現され所狭しと展示されていた。
アンティークに見えない家具は、新しいニスの匂いが残されていて

その匂いが私を嫌な気分にさせていく。

一通り品定めをしたが当然、日本の団地サイズの部屋には不釣合いな程、

サイズが大きかったりで、思うような家具は結局見つからなく

会場を出ようとした時、展示場の隅に今まで気付かなかった

装飾も無く傷だらけの古びたドレッサー目に付いた。

そのドレッサーの前では少女が曇った鏡を覗き込みながら

小首を傾げたり、手を翳したりしている。
少女の緑かかった黒い髪が、首筋の黒子のあたりで切りそろえられ、

会場のシャンデリアの光がその髪に一層複雑な艶を与えている。

その髪の色のせいか、首は髪と黒子を際立たせるように細く

日本人にしては珍しい。

月明かりの下でのほうが映えるかのような白さだった。
(可愛い子やなぁ)と思いながら見ていると、ふと、気がつく。

少女が鏡に向いながら何か呟いている事に。

(なんで一人で喋ってんねんやろ?気になるやんか!…)

一人芝居してるような少女が気になり、何気ない振りして近づいて行く。
もう一度、鏡を覗いてみると、

そこにはさっき気付かなかった小さなひび割れが片隅にあって、

そのひび割れた場所には少女の唇が万華鏡のように映っていた。
微かに聞こえてきた少女の声は想像してたより低く。


「……チラ…チラ…」 

「行かないで…置いて行かないで…」と呟いていた。


私は(えっ、どうしたんやろう?この子)と思いながら

もう一度、鏡を覗き込んでみた。
手入れされていないドレッサーの鏡の中には、

オーラが輝くような赤い髪の大人びた女の子が曇った鏡の中で

泣いているのが見えた。

チラホラと人がいるこの空間で、

少女と私だけが取り残されたようなほんの短い時間。
これが、古い家具を探してた私と「奇妙・不思議」な少女との出会いだった。


すごーい忙しかってブログともご無沙汰してた(-_-;)

それでも「アダチラ」は時間がある限り書いててんよ

それにしても…

「小説」に嵌まってしまった\(◎o◎)/

読むばかりやったけど、まさか書くのもこんな面白いとは!


今日は、時間があったので色々と弄ってたら


(@_@)…あれ…ここはちゃうやん…\(◎o◎)/

などなどと手直ししてたら邪魔臭くなって


得意の「初めからやり直し」(*_*;


「アダチラ」もなんも考えんと更新してたから(アホやなぁ)

読み直すと 酷過ぎる~

清書しなおしたのを始めから更新しなおしますm(__)m



8月にある仕事のイベントの為、当分はヘロヘロやでぇ~