過去の2回で、大まかな概念だけを説明しました。

ポイントは下記2つです。

 

・日銀の国債買い入れは「買い入れ」と言うより日銀が民間銀行から国債を「預かった」という表現のほうが正しく状況を表している。だから、買い入れの原資は必要ない。

・国がじゃんじゃん国債を擦り、民間銀行が国民・企業から預かったお金でドンドン国債を買い、日銀が銀行から国債をどかっと預かっている。だから、国が国債を擦り、日銀は輪転機を回して刷った紙幣で国債を買っているわけではない。国債を買っている原資は国民・企業が銀行に預けている銀行預金のこと。

 

今回は、上記の概念をザクッと理解した上で、実際の現在の数字を置いながら、更に理解を補強します。

 

日銀のウェブサイトです。

https://www.boj.or.jp/about/account/zai1711a.htm/

 

平成29年度上半期バランスシート

資産
合計513兆4438億円
負債・純資産
合計513兆4438億円
金 4412億円
現金 2322億円
国債 435兆9081億円
貸出金 46兆8793億円
外貨 6兆7517億円
投信・株・社債 22兆5196億円
その他流動資産 5082億円
固定資産 2029億円
(負債の部)
発行銀行券 100兆7945億円
預金 385兆4015億円
政府預金 17兆8428億円
その他負債 5兆6700億円

(純資産の部)
資本金 1億円
法定準備金 3兆1844億円
当期剰余金 5502億円

 

これまでお話した、準備金というのは、負債の部の「預金」に相当します。

 

 
経緯はともかく、バランスシートをスナップショットで見る限り、
1:日銀は民間銀行から385兆円分の預金と100兆円分の銀行券、総額485兆円を預かっている
2:預かったお金を使って46兆円は民間銀行に貸し、更には投信・株・社債の形で民間のものを22兆円買っている。しかし435兆円分もの国債を買っていて、それはそのまま日銀の金庫(実際は電子的なものですが)に眠ったまま。
といえます。すなわち、いくら国債を「買い入れ」ても、89.7%(=435兆円÷485兆円)は機能していないのがよくわかります。
 
これが、仮にですが、日銀が民間銀行から国民が預けている預金(国債ではない)を485兆円預かり、その485兆円で、日本政府がじゃんじゃん刷った国債435兆円と民間企業の株22兆円を短期間(数日間の間に)で買いました、更にお金を借りたい人がいたので46兆円を低利で貸し出しました、となればどうでしょうか。日本政府は自分が刷った借用書の代わりに435兆円が一気に手元に入るわけで、国民一人あたりに平等に400万円配るという恐ろしい無駄遣いが可能となります。これはかなりインパクトが有り、リードの仕方次第では景気刺激策にはなるかもしれません。また、22兆円もの株を短期間で買ったら株価も一気に上るでしょう。46兆円のお金を、お金がないがアイデアがあるスタートアップ企業、シェアが高いが資金繰りに苦しんでいる企業に向けて低利で貸し出せば、新たなビジネスが多数発生し、活気が出るかもしれません。
 
しかし、実際は、日銀は民間銀行がもともと保有していた国債を400兆円預かっただけ、すなわち国債の置いてある物理的な場所(正確には電子的な場所)が民間銀行から日銀に移っただけなので、お金のフローはあまり変わらないです。また、国民も国債が増えていることに対して萎縮していますから、お金の流れに対するインパクトは金額ほどは生じえません。
 
ちなみに、一年前の平成28年度上期と比べると、当期剰余金が7504億円増えています。
損益計算書を見ると、国債の利息が5972億円、為替収入が1639億円。
これが主な収入です。
民間銀行(もともとは国民)から強引に預かった国債で利息(原資は国民が払った税金)を6000億円近く稼ぐというのは、う~ん、なんたる骨太なビジネスモデル、と言わざるをえないです。。。
これが国債「買い入れ」の成果だとすると、日銀単体の損得で見たらそれはたいそうすごい経営戦略(?)だと思います。
 
もう少し考えるために、7年前、平成22年度上半期のバランスシートを見てみましょう。
資産
合計120兆3317億円
負債・純資産
合計120兆3317億円
金 4412億円
現金 3626億円
国債 76兆6687億円
貸出金 36兆1284億円
外貨 4兆6145億円
投信・株・社債 1兆5290億円
その他流動資産 3714億円
固定資産 2155億円
(負債の部)
発行銀行券 76兆8546億円
預金 20兆1856億円
政府預金 1兆1889億円
その他負債 19兆5844億円

(純資産の部)
資本金 1億円
法定準備金 2兆6783億円
当期剰余金 1604億円
 
こう見てみると、スナップショット的な見方では、民間銀行から銀行券76兆円、預金20兆円、その他諸々で20兆円を預かり、それで国債77兆円を買い、36兆円を貸し出していた、という感じです。
 
民間への貸出金が経済の活性化につながり、それを2年で2%の物価上昇につなげる(私はこの2つの項目のからくりが結びつかないです)というのが日銀の国債「買い取り」の目論見でしょうから、この平成22年の36兆円の貸出金の金額と、平成29年の47兆円の貸出金の金額の意味合いは、吟味が必要です。
400兆円近く国債を大騒ぎして「買い取り」し、貸出金の伸びは7兆円。これが黒田バズーカ、アベノミクスの成果のすべてです。この費用対効果に対する評価は未だに聞いたことが無いです。
他方、投信・株・社債は平成22年の1兆5290億円から22兆5196億円へ、21兆円、15倍近く伸びています。アベノミクスで株価が伸びたとしても数倍ですから、この増幅率の説明はつかないです。銀行からは基本国債の形で預かっているはずです。日銀の方針的に、国債を投信・株・社債に変えるのは流石に困難なはず。そうすると、投信・株・社債を購入した原資は、ひょっとしたら国債の利息なのかもしれません。
 
したがって、私なりに黒田バズーカ、アベノミクスを結論付けるとすれば
・400兆円の国債の保管場所が、民間銀行から日銀に移った
・株価上昇のきっかけになり、民間への貸出金はこの7年間で7兆円伸びた
・その運営の原資はすべて国民の預金と税金によってなされているが、費用対効果の議論がない
という点に収束します。
 
国債の置き場所を血税を使って色々といじるよりも、国債の発行、すなわち国の支出をどうやって抑えるかの議論に早く主眼が変わることを願います。