投資用マンションの勧誘について説明義務違反による損害賠償請求を認めた事例 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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投資用マンションの勧誘について説明義務違反による損害賠償請求を認めた事例

 

 

 本件は、不動産業者の従業員による投資用マンションの勧誘について、マンション投

資のメリットのみを強調してリスクについて具体的に説明していないとして説明義務違

反を認め、購入代金・諸費用・不動産取得税等の合計額から転売価格を差し引いた額を

損害として、4割の過失相殺を行ったうえ弁護士費用を加えて損害賠償請求を認容した事

例である。投資用マンションの勧誘トラブルの救済のうえで、参考になる判決である。

(東京高等裁判所令和元年9月26日判決

〈確定〉、先物取引裁判例集82号178ページ)

 

投資用マンションの勧誘事案と適用法令

 

投資用マンションの勧誘は、本件のように電話勧誘で始まり、喫茶店や自宅などで契約が締

結されることが多いので、特定商取引法(以下、特商法)で言えば電話勧誘販売や訪問販売の類型ということになる。 

 

しかし、宅地建物取引業者による宅地建物取引については特商法が適用除外となり、許可業

者の宅地建物取引の場合には宅地建物取引業法(宅建業法)が適用される。

したがって、不動産業者の投資用マンションの勧誘事案では、特商法のクーリング・オフや取消権は使えない。

宅建業法にもクーリング・オフの規定があるが特商法の場合と違った制約があるので注意が必要である。

例えば、特商法の場合には消費者が住居での契約の申込みまたは契約締結を請求した場合は適用除外となる。

これに対して宅建業法の場合、自宅または勤務先で売買契約の説明を受けることを申し出たときにはクーリング・オフできない。

また、業者によるクーリング・オフ妨害行為が行われた場合の期間延長の規定も置かれていない。

宅建業法のクーリング・オフができない場合には、民法や消費者契約法による救済を検討することになる。

民法による場合は、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられるが、そのほかにも錯誤や悪質な事案については詐欺・強迫、公序良俗違反も検討する。

 

3. 不法行為責任

本件は、投資用マンションの勧誘について、説明義務違反があるとして、不法行為責任を認

めた重要な高裁判例である。

投資用マンションの勧誘の場合に、説明すべき内容や説明の程度が問題となるが、その点に

つき本判決は、「少なくともマンション投資についての空室リスク、家賃滞納リスク、価格下落リスク、金利上昇リスク等を分かりやすく説明すべき」として、説明の範囲や程度を具体的に示しているので、実務上参考になる。

さらに、本判決は、「告知書兼確認書」には不動産価格が変動すること、賃料収入は保証されないこと、計算例の値も保証されないことなどが抽象的に記載されていたとしつつ、Xはその記載内容を十分理解していなかったとして、説明の程度も不十分としている。

この種の書面がある事案が多いと考えられるが、その場合の評価を検討するうえで参考となる。

 

4.  消費者契約法

投資用マンションの勧誘事案について、消費者契約法による取消しを認めたものとして、参

考判例②がある。

本判決は、勧誘に応じて契約した消費者が、後にマンション価格の下落が判明したことか

ら、勧誘に不実の告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知があったとして、消費者契約法による取消しを求めた事案である。

本判決は、売買契約締結の際、重要事項である本件不動産の客観的な市場価格を提示しておらず、家賃収入が 30 年以上にわたって一定であるなど非現実的なシミュレーションを提示し、原告に月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させた、不動産投資をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかったなど、消費者契約法の重要事項について不利益となる事実を故意に告げなかったため、原告はそのような事実が存在しないと誤認し、それによって売買契約を締結したものであるから、同法4条2項による取消しが認められるとした。

そして、2件のマンションの購入のための支払総額約5000万円から家賃収入などの総額を差し引いた約4700万円の請求を全部認容した。

 

5.  銀行ローンとの関係

銀行との関係では、銀行ローンの支払いを信義則上拒絶できるかが問題となる。

一般論としては、売買契約とは別個の契約なので、特段の事情がある場合を除いて、拒絶できないと考えられる。

参考判例③は、婚活サイトを利用した投資用マンションの勧誘の事案で、当該事案では認めていないものの、売買契約が公序良俗違反で無効となる場合において、特段の事情がある場合には消費貸借契約も無効となると判示している。

一般論は以上のとおりであるが、投資用不動産向け融資に関しては、金融機関に顧客を紹介

する不動産関連業者が融資資料を改ざんして提出している例があるとして、金融庁が調査結果を公表し*3、同庁が行政処分に至った事例もある*4。よって、一般論を踏まえたうえで、金融機関の責任が問われる事案かという点も検討する必要がある。

(国民生活センター 消費者判例情報評価委員会)

 

*3 2019年3月28日「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果について」 https://www.fsa.go.jp/news/30/20190328.html

*4 2018年10月5日「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」 https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20181005/20181005.html

参考判例

①東京地裁平成 31年 4月 17日判決(先物取引裁判例集 82号 165ページ)本件の原審

②東京地裁平成 24年 3月 27日判決(ウエストロー)

③東京地裁平成 26年 10月 30日判決

 

基資料

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202007_15.pdf

 

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