(1)事案の概要
平成元年2月頃、買主Xは、媒介業者Yから、土地を紹介された。本件土地は、東側隣地の境界付近で高低差約7~8mのがけになっており、建築関係法令等により、東側境界から10~11mの範囲は建築制限を受け、がけ部分に擁壁を設置しない場合には、建物の建築に当たって、がけの高さの2倍を超えるセットバックをしなければならないという制約もあった。
しかし、Xは、本件土地の眺望の良さが気に入ったことから、Yに対し、東側のがけ部分に擁壁を建造するとした場合等の概略図と費用の概算の調査を依頼した。Yは同年4月、費用約2,100万円の第1案と、費用約1,000万円の第2案とを示した概算見積書をXに交付した。
Xは、第2案程度の費用で擁壁が築造できるものと信じ、同年5月Yの媒介により、売主との間で本件土地を1億1,800万円で買い受け、同年6月代金決済時にYに媒介手数料370万円余を支払った。
重要事項説明において、Yは、本件土地につき盛土をする場合には宅地造成等規制法等の規制がある旨告知したが、建築関係法令等に基づく規制があることの説明をしなかった。その後、Xが宅地造成工事に着手しようとしたところ、本件概算見積書にある擁壁設計案は建築関係法令等に基づく規制に適合しないことが判明した。
XはYに対し、損害賠償を求めて提訴し、第一審の横浜地裁は、Yに媒介契約に基づく善管注意義務違反があったとして、Xの請求を一部認容したが、Xが敗訴部分を不服として控訴した。
(2)判決の要旨
(ア)Yは、建築基準法、宅地造成等規制法等による規制があることについて具体的な説明をしていなかった。かえって、誤解を与えるような概算見積書を格別の説明を加えることなく交付して、Xに誤解を生じさせたものであるから、媒介契約に基づく善管注意義務違反があり、債務不履行により、Xが被った損害を賠償すべき義務がある。
(イ)しかし、Xが概算見積書によって、本件土地上に希望の建物を建築できると即断したことについてはXにも過失があり、売主との交渉を考えることなく、長年にわたってYの責任の追及に終始して、損害の回復を困難にしたXの過失割合は大きく、6割を過失相殺するのが相当である。
|