・<判例解説>
賃借人の賃料不払いを理由に建物の鍵を交換した事案
賃貸人が、
(東京地裁平成16年6月2日判決 棄却 確定 判例時報1899号128頁)
1 事案の概要
室内装飾品類の販売等を営む法人Xは、平成10年10月、
本件建物を事務所兼倉庫として使用していた。
また、Yの承諾を得て、X代表者の夫で実質的経営者Aが代表取締役を務める関連会社Bの事務所としても使用していた。
しかし、Xは、資金繰りが悪化し、平成11 年3月分及び4月分の賃料支払いを遅滞した上、Aが同年4月、刑事事件で逮捕勾留されたため、
業務の遂行が困難となり、同年5月分以降の賃料を一切支払わず、
その支払いの目処も立たない状況に陥った。
そこでYは、平成11年6月1日、Xに対して、
Yは、本件賃貸借契約が解除されたとの前提のもとに、同月8日、
本件建物に赴き、たまたま居合わせたBの従業員の立会いのもと、
本件建物の鍵の交換(以下「本件鍵交換」という。)を行った。
そこでXは、Yが本件鍵交換をした行為は違法な自力救済であり、
これによって本件建物を使用できず、
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。
(1) 本件鍵交換の違法性の有無
本件賃貸借契約は、
Xは、本件鍵交換当時、
しかしながら、
困難な状況にあることを了解した上でなされたものである。
本件契約解除通知において予告はされていたものの、本件建物内の動産類の持ち出しの機会を与えることなく、たまたま居合わせたXの関連会社の従業員を立ち会わせて行われた
そして、自力救済は原則として法の禁止するところである。
ただ、法律に定める手続きによったのでは、
(最高裁昭和40 年12月7日判決 民集19巻9号2101頁)。
本件は、このような場合に当たるとは認められず、本件鍵交換は違法な自力救済に当たり、不法行為が成立するものと認められる。
(2) 本件鍵交換による損害の発生の有無
Xは、本件鍵交換によって、
したがって、
(3) 未返還保証金債務の有無及びその額如何
本件賃貸借契約においては、契約締結時に、賃借人であるXが、
賃貸人であるYに対し、保証金700万円のうち250万円を
償却金として支払うものとされているが、
定められているというべきであって、
しかしながら、
Xの請求する保証金返還請求権は相殺によって消滅したか控除によ
3 寸評
判決では、本件賃貸借契約は、Xの賃料等の不払いを理由として
解除されたものと認められた。
また、Yの行為に伴うXの損害賠償請求については、
他方、本件鍵交換行為については、一般的基準を示している
最高裁昭和40 年12月7日判決を引用し、Yの鍵交換行為はXの占有権を侵害する違法な自力救済に当たり、不法行為が成立すると判断した。
(参考)
建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、
建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例
(札幌地裁平成11年12月24日判決)
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