(1) 事案の概要
買主Xは、昭和48年2月、土地付建物を売主業者Yから購入したが、平成5年12月頃本件宅地の売却を考え、媒介業者に調査させたところ、平成6年2月ないし3月頃、本件宅地の一部には、昭和47年10月、市から回転広場として道路位置指定がなされていたことが判明した。
これにより、本件宅地上の建物を改築等するに当たっては、床面積を大幅に縮小せざるを得ないこととなり、Xは、宅地の購入時、Yからこの事実を知らされていなかったので、隠れたる瑕疵にあたると主張し、平成7年2月、Yに対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、約1,250万円の支払を求めて提訴した。
これに対してYは、売買契約上の権利義務自体が一般の消滅時効により消滅するのに、瑕疵担保責任がそれ以上に存続すると解するのは誤りである等として、Xの損害賠償請求権は、民法167条1項の10年の消滅時効にかかると主張した。
第一審(浦和地判 平成9年4月25日)は、Xの請求を斥け、控訴審(東京高判 平成9年12月11日)では、時効による権利の消滅は、買主に瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく、公平ではないとしてXの請求を一部認容した。
(2) 判決の要旨
(ア)瑕疵担保責任による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。買主が、引渡しを受けた後、通常の消滅時効期間満了までの間に、瑕疵を発見して損害賠償請求することを期待しても不合理ではない。他方、消滅時効の適用がないとすると、買主が瑕疵に気が付かない限り永久に損害賠償請求できることとなり、売主に過大な負担を課することとなる。
(イ)したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には民法167条1項の消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は引渡しの時から進行すると解される。
(ウ)本件におけるXの請求は、引渡しの日から21年余り経過後であったので、消滅時効期間が経過している。
(エ)Yによる消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとのXの再抗弁等について審理を尽くさせるため、本件を差し戻す。
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