裁判事例    価格検討上の重要な事実の売主の説明義務 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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裁判事例
価格検討上の重要な事実の売主の説明義務
     

最高裁判決 平成16年11月18日
(判例時報 1883号 62頁)
(判例タイムズ 1172号 135頁)

《要旨》
 売主が、買主の意思決定の上で重要な価格の適否に関する事実について説明をしなかったことが、慰謝料請求権の発生が認められるほどの違法行為とされた事例

 

(1) 事案の概要
 Y(現在の都市再生機構)は、平成2年、Y所有の団地を建て替えるため、同団地に居住するXらと、建替事業に協力した場合の建替え後の分譲住宅についての優先購入機会の確保、仮住居の確保、引越費用相当額及び100万円の支払を約し、覚書を交わした。優先してあっせんする旨の条項は、一般公募価格とXらに対する譲渡価格が少なくとも同等であることを前提とし、抽選によることなくXらが住宅を確保することができるものであった。そして、Xらは、従前の賃貸借契約を合意解約し、明け渡した。


 Yは、Xらのうち43名との間で平成7年10月に、また、Xらのうち15名との間で平成6年12月に、分譲住宅につき譲渡契約を締結した。


 Yは、当時、Xらに対する譲渡価格で一般公募を行っても購入希望者が現れないことを認識しており、直ちに未分譲住宅の一般公募をする意思を有していなかったが、このことは説明しなかった。


 平成10年7月に、未分譲住宅について、値下げをした上で一般公募をしたが、その平均値下げ率は、25.5%~29.1%であった。


 そこで、Xらは、分譲住宅の価格の適否及び契約の締結を十分に検討する機会を奪われたなどと主張し、慰謝料等の支払を求めた。

(2) 判決の要旨
 (ア)Yは、本件契約締結の時点において、Xらに対する譲渡価格が高額に過ぎ、その価格で一般公募を行っても買手がつかないことを認識しており、直ちに未分譲住宅の一般公募をする意思を有していなかったにもかかわらず、Xらに対し、直ちに未分譲住宅の一般公募をする意思がないことを説明しなかった。


 (イ)Yは、Xらが、本件契約締結時点で未分譲住宅の一般公募が直ちに行われると認識していたことを少なくとも容易に知ることができたにもかかわらず、Xらに対し、一般公募を直ちにする意思がないことを全く説明せず、これによりXらがYの設定に係る分譲住宅の価格の適否について十分に検討した上で本件契約を締結するか否かを決定する機会を奪ったものというべきであって、Yが当該説明をしなかったことは信義誠実の原則に著しく違反するものであるといわざるを得ない。Xらの本件契約を締結するか否かの意思決定は財産的利益に関するものではあるが、Yの上記行為は慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することが相当である。

 

(3) まとめ
 本判決は、信義誠実の原則に著しく違反するとし、不法行為に基づき、慰謝料まで認めたものである。