「原状回復義務」問題、判例なくトラブル多発 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

 NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

内閣府認証
NPO法人日本住宅性能検査協会
AAIは建築・不動産を巡る紛争の予防および人材育成を目的とする第三者機関。有識者による7つの専門研究会、弁護士や一級建築士等による第三者委員会で構成。公正・公平な評価及び提言を行ないます

「原状回復バスターズ」は、オフィイス・店舗等のテナントの原状回復問題解決の専門家集団です。


倒産多発でビル賃貸契約の死角急浮上、「原状回復義務」問題、判例なくトラブル相次ぐ


 全国に支店を構えるような大企業の倒産が続いたことで、オフィスビルなどの賃貸契約の死角が急浮上している。賃貸契約終了時に、借り手がオフィスビルを借りる前の状態に戻す「原状回復義務」がそれだ。

 例えば金融機関の場合、店舗内に専用のエスカレーターを設置したり、ビルの出入り口と別に専用の出入り口を設けるなど、独自の改装をしている。そのままではほかの借り手に貸せないため、元の状態に戻さなければならない。こうした原状回復には億円単位の工事費が必要なこともある。

 倒産した企業にその費用を請求しても、財団債権として優先的に支払われるのか、一般債権になるのか、判例がない。賃料については財団債権として優先的に支払われるという判例がある。一方、原状回復費用についてはあいまいなまま、現実のトラブルが増えているのだ。

三洋証券の支店ビルでは和解
 1997年に会社更生法の適用を申請した三洋証券が賃借していた支店では、原状回復費用を巡ってすでにビルオーナーとの和解が成立した事例がある。

 三洋証券は、子会社である三洋不動産がビルオーナーと賃貸契約を結び、さらに三洋証券が賃借する形をとっていた。三洋証券は更生法により会社の再建を目指したが、三洋不動産は破産を申請し、会社の清算に向かった。和解が成立した事例では、この点が問題になった。

 民法は、企業が破産した場合にビルの貸し手が賃貸契約を解除できるよう定めている。ビルオーナーは、三洋証券の倒産に伴い、新しい借り手を探すために破産した三洋不動産に賃貸契約の解除を申し出た。ところが三洋証券が外資系企業などの支援を受けるために支店網の存続を図り、三洋不動産は賃貸契約の解除に応じなかった。98年後半まで1年以上にわたって賃料が支払われた。

 その後、三洋不動産が一転して契約の終了をビルオーナーにもちかけた。そのため契約の中途解約を巡って三洋不動産が違約金を支払うかどうかが争点になった。ビルオーナーは新しい借り手を探すため早期解決を希望。結局、中途解約金はあきらめて、三洋不動産から入居時に預かった保証金と原状回復費用とを相殺することで和解、決着した。

 ビルオーナー側の弁護士、吉田修平氏は、「三洋不動産は原状回復費用を破産債権として認めたが、判例がないため解決が遅れてしまい、ビルオーナーが連鎖倒産するケースも多いのではないか」と警鐘を鳴らす。実際、企業倒産と不動産トラブルの両方を多く手がけた吉田弁護士のもとには、全国の弁護士から倒産企業に原状回復費用を請求できるか、相談が相次いでいる。

 これまで原状回復費用は賃貸住宅ではしばしばトラブルになっていた。賃貸契約を終えたときに、部屋をきれいに使っても汚しても同じ費用を請求されるというケースが多かった。原状回復費用をどう算定したのかを巡るトラブルだ。大企業の倒産などという事態がめったに起きなかった時代には、こうしたトラブルは個人の賃貸住宅の話にとどまっていた。

 ところが、和解が成立した三洋不動産の事例でも、原状回復にかかる工事費の算定は本来の契約通りには請求できなかった。ビルを建設したゼネコンの見積額を算定基準にする契約だったが、三洋不動産側が独自に原状回復費用を見積もったのだ。適正な原状回復のための工事費を巡って貸し手と借り手が対立することは今後も起こりそうだ。

 地価が右肩上がりで推移し続けると信じられていた時代には、テナント企業の倒産をまったく想定せずにビルを建設したケースがある。半永久的に有力企業が賃借するという前提で、その企業独特の仕様で建設したビルでは、原状回復させてもほかに借り手はつきにくい。テナントの倒産で見込んでいた安定的な賃料収入が途切れれば、借入金の返済も行き詰まる。急浮上した原状回復義務の問題は、ビルオーナーのリスク管理の甘さを問うている。


無料相談



「敷金返還が不安だ」「建物の不具合で困ってる・・」敷金診断士・大谷昭二,日住検理事長の活動日記-原状回復コンサル




「敷金返還が不安だ」「建物の不具合で困ってる・・」敷金診断士・大谷昭二,日住検理事長の活動日記-日住検