ドスン、と尻餅をついた。派手にこけたはずなのに、まったく痛くない。
それよりも、思わず手で掴んだ雪の柔らかさと、きめの細かさに驚いた。
九州でたまに降る雪は湿って重いのに、信州・白樺の雪はさらっとしていて、まるでお砂糖みたいだ。

「由香子、大丈夫?」
笑いをこらえきれない理恵が、スキーで近づいてきて手を差し出す。

「おーい、どうした?」
遠くから村田まで巧みに滑ってきた。
あの二人は本当にスポーツ万能で、昨日今日覚えたばかりとは思えない。インストラクターも舌を巻くほどの上達ぶりだ。

私はというと、特に苦手でも得意でもないスポーツだけど、やっと1日目に真っすぐ滑れるようになった程度。
さっきは、旗がはためく地点で止まる練習をしていたのに、止まれずにずんずん滑り落ちていき……。

周囲の生徒たちは「うまい、うまい!」なんて言っていたけれど、ちょっと待ってよ。分かってるくせに。
止まりたくても止まらないの。
こうなったら最後の手段、座っちゃえ!と思った瞬間、予想より早くお尻が落ちた、というわけだ。

振り返ると、かなりの距離を滑ってきたみたい。
あの地点まで板で歩いて戻るのかと思うと、もう宿舎へ帰って寝たい気分だった。
そんなとき、理恵が、続いて村田が、華麗に滑ってきてくれたのだ。

「うん、大丈夫、大丈夫。それよりさ、見てよ、この細かい粒子の雪!」
私は掴んだ雪を二人に差し出す。

「ほんとだわ。一度もこけてないから気づかなかったけど、さらさらしてて、お砂糖みたいなんだね」
理恵の一言は余計なようで、でも嫌味に聞こえない。

背後で村田が珍しく、にたっと笑った。

二人に手を引かれて立ち上がる。
スキーウェアについた雪を払うと、さらっと落ちていった。
べちゃっと濡れる感じがまったくない。粒子が滑り落ちていくようだ。

まさにスノーパウダー。
これなら何度尻餅をついたって大丈夫……いや、そうじゃないでしょ!と心の中で自分に突っ込む。

だけど、本当に思った。
この雪と出会えただけでも、この修学旅行には夢がある。うん。

 

「この斜面をスキー板つけて登るのは、さすがにしんどいな」

「もう少し滑ればリフトがあるよ。その方が楽しくない?」
「そうだな」

理恵と村田は互いにうなずき合うと、そろって私の方へ振り返った。

あ……わたし、ね。
宿舎へ戻るなんて言えるはずもないし、勝手な行動は厳禁。
ここは、うまく言わないと。

「二人、先に行って。私はゆっくり滑っていくわ。復習も兼ねて」

ほんとにそれでいいの、と理恵が眉を寄せ、
一人の方が真剣に滑るだろ、と村田も同意する。

どうか私に遠慮せず、二人っきりでリフト乗り場までスキーデートしてきて頂戴!
……とは声に出さなかったけれど、むひひっと笑ってみせた。

「なによ、その変顔!」と理恵が吹き出し、
村田は背中越しに肩を揺らして笑った。

「ほんとにいいんだね。じゃ、先に行くよ」
「うん」


二人は軽やかに斜面を滑り出していく。
雪の上を風が走るみたいに、迷いのない軌道で。

私はその背中を見送りながら、ふうっと息をついた。
悔しいけれど、ちょっとだけ羨ましい。
私だって頑張ってるのに、止まれないし、こけるし、もう……なんなのよ。

でも、そんな自分を笑えるくらいには、この雪が気持ちよかった。
さっき掴んだスノーパウダーの感触が、まだ手のひらに残っている。

ふと、背中に視線を感じた。
振り返ると、少し離れた場所に、同じ班の男子が立っていた。
リフトへ向かうでもなく、滑り出すでもなく、ただこちらを見ている。

何か言いたげで、でも言えないような、そんな気配。
冷たい空気の中で、彼の吐く白い息だけが、やけに熱を帯びて見えた。

私は軽く会釈して、前を向く。
理恵と村田の笑い声が、斜面の下から弾んで聞こえてくる。
その音に引っ張られるように、私はスキー板を揃えて、そろそろと滑り出した。

止まれるかどうかは……まあ、運次第。
でも、胸の奥がほんのり温かい。
雪のせいじゃない気がした。

 

自由行動の日の朝。
起きた瞬間、太ももとふくらはぎが悲鳴を上げた。

「いったぁ……」

昨日の転倒と、止まれないまま滑り続けたあの距離。
そりゃ筋肉痛にもなるよね、と苦笑しながらジャージに着替えた。

健康チェックの列に並んでいると、前の方で先生の声が少し慌ただしくなった。

「え、38度? スキーは無理だ。今日は臨時の静養室で休んでいなさい」

誰だろうと思って覗くと、同じ班の男子だった。
いつも控えめで、あまり目立たない子。
昨日も、遠くからこっちを見ていた気がするけど……気のせいかな。

先生が付き添いを探しているのが分かった。

――あ、これチャンスかも。

理恵と村田を二人きりにしてあげたい。
昨日のあの滑りっぷり、もう完全に“いい感じ”だったし。
それに、正直、私は筋肉痛でスキーどころじゃない。

「先生、私、残ります。保健委員ですし」

そう言うと、先生は安心したようにうなずいた。

無言だと普段は気まずいが、相手は高熱だ。

おしゃべりどころじゃないだろうと、黙ったまま静養室までゆっくり歩く。

「わたし、事情を同じ班の子たちに伝えてくるから。」

とだけ言い、いったん、離れた。

理恵たちは残念がったが、「私の分まで楽しんで。あとで話を聞くから」

と、手を振って別れた。

 

静養室へ戻ると、男子が布団に横になっていた。
眠っているのだろうか。そっと枕もとを覗き込むと、顔が赤い。
熱のせいだろうけど、なんだか妙に恥ずかしそうにも見えた。

ううぅと、小さく唸る。起きてるみたいだ。

「大丈夫? 熱、つらいよね」

そう声をかけると、彼は小さくうなずいた。
その仕草が、なんだか子犬みたいで可愛かった。

氷枕を替えてあげるとき、彼の額に触れた指先に、じんわり熱が伝わってきた。

「わ、ほんとに熱い……」

思わずつぶやくと、彼は目を閉じたまま少しだけ息を吸った。
苦しいのかな、と思っておでこに乗せたタオルを裏返す。

窓の外では、雪が静かに降っている。
スキー場へ向かう生徒たちの声が遠くで弾んでいた。

「今日はゆっくり休もうね。無理しないで」

そう言うと、彼はまた小さくうなずいた。

「ごめん…」

「え?」

聴き取れないくらい、小さな声だ。病人らしい。だけどそれだけじゃない。

「きょうはごめん。僕のせいで…その…スキー行けなくなって」

……なんだろう。

同じクラスなのに。しかも、同じ班なのに。初めて発したような彼の言葉に、思わず感情が揺らいだ。

「ううん、そんなことないよ。私も筋肉痛だしね。休養できて喜んでるくらい。

私が付きそうから、安心して休んでいいよ」

私は保健委員だし。

それに、今日は理恵と村田のための日。
二人が自由行動を楽しんでくれたら、それでいい。

私は椅子に腰かけ、静かに深呼吸した。

筋肉痛でスキーはほんと無理。
でも、こうして誰かの役に立てるなら、それも悪くない。

彼の寝息が、少しずつ落ち着いていく。

雪の降る音が聞こえそうなほど静かな部屋で、私はそっと窓の外を眺めた。

またいつの日か、あのパウダースノウに触れたい。

その時は今よりずっとずっと上手くなるんだ、心の何処かで静かに誓った。

 

修学旅行から戻り一週間が瞬く間に過ぎた。

少しずつ日常に戻りつつある中、来年もスキーへ行こうよ!と計画を立てる子もいれば、もういいやって子など様々だ。

私も最初は、センスないよなぁ、尻餅ばかりでって思ったが、最終日、発熱した男子… 英二くんと二人で静かに過ごしたことで、気持ちに変化が現れた。 

「いつか、リベンジしよう。流石に一緒に…とはいかないけど。必ずスキー上手くなろう!」

と、二人で誓ったのだ。

このことは理恵にも村田にも話さなかった。

英二くんと自分だけの ちょっとしたひ・み・つ、ってやつ。

クラス中がスキーの話題で盛り上がる中、どっちともつかず、クラスの中で英二くんと視線が合った。

あの後も、特に、二人で話すわけでもなかったけれど。

二人にしか分からない暗号みたいなものだろうか。

上手く言えないけど。

「修学旅行の写真が焼きあがってきたぞ! 必要な写真の番号を記入し、料金を添えて提出すること。今朝の連絡は以上だ」

担任の声を合図に、学級委員が号令をかける。

「起立。礼!」

「ありがとうございました!」

「着席!」

朝礼を終えた担任が教室の外へ出るやいなや、皆がわっと、写真が貼りだされたボードへ群がった。

インストラクターと一緒にピースをするクラスメイトや、各部屋での集合写真などを順に眺めていく。

…とその時。男子の甲高い声が響いた。

「おい!これ、見ろよ!女子の部屋に一人だけ、男子がまざっとる!誰や!女子部屋に侵入した奴は?」

「え?何なに?」

「そんな…美味しいことした奴おるんか?」

「やるなぁ…」

男子が盛り上がり、冷やかす中、我ら女子は、首を傾げる。

「そんなことあった?」

「ないない!」

理恵が男子たちに一体、どの写真なんだ?と問うた。

「これだよ、これ!」

男子が指さす方向へ、クラス全員の視線が吸い寄せられた。

次の瞬間――

「えーーーっ!」

真っ先に悲鳴に似た声を上げたのは、理恵だった。

そこには… 今流行りの聖子ちゃんカットの女子生徒たちに混ざって、

あ、ちなみに私は静養室にいて、映ってないけど…ストレートのロングヘアだけど… 汗

その…一人だけショートカットでボーイッシュな理恵が、満面の笑みで写っていたのだった。

 

三学期の終わり、衝撃的なニュースが告げられた。
しかも、本人の口からではなく、担任からだった。

「山口英二がお父さんの転勤で、福島の高校へ転校することになった」

あまりに唐突な話に、自分では気づかないうちに、頬を涙が伝った。
斜め前の席で振り返った理恵が、ぎょっとした顔で私を見たことで、
初めて自分が泣いていることに気づいた。

朝礼が終わると、待ちきれないという風に理恵がやってきた。

「ちょ、ちょっと、あんたたち、いつの間に、そういう仲になってたのよ?」

私は英二くんと視線を合わせられずにいた。
どうして話してくれなかったのだろう。

「そんな仲って、何よ。なんでもないよ。何でも……ない……」

事実、私は一言も聞いていなかった。
何も知らされていなかった。

いつのまにか、村田も私の席の前に陣取っていた。

「なんでもない人が転校するって聞いて、こんなにぽろぽろ涙を流すものかな」

理恵の言葉は、ごもっともだった。
自分でも分からない。
ダムが決壊したかのように、意思なんて完全無視で、涙があふれだしたのだから。

「それで…由香子、あの…ファーストキスとか? もしかして……」

「へ? 何でもないって言ってるじゃん! だけど……英二くんのおでこには触れたことある」

「お? おでこ? おでこって言った? ってことは、お、おでこに…き、きっすな訳よね?」

変顔レパートリーを目の前で繰り広げた理恵は、
最後には野獣の遠吠えか⁉と思うような理解不能な声を出した。

「あ、でもさ。私も村田の肩とかに触れたことある!」

蒸気したまま理恵が言うと、村田がすかさず叫んだ。

「あれは、触れるって表現間違ってるぞ! ありゃ、暴力だろーが!
俺ら男子は喧嘩するとき、手加減するけど、お前は思いっきり肩とか背中とかバーン!と叩きやがる。骨にヒビが入るんだよ!」

理恵と村田が痴話げんかをする中、私の視線が泳ぐ。

英二くんと目が合う。

すっと彼が近づいてきた。

「ごめん。何度も言おう、今日こそは話そうって。でも言えなかった。
手紙、書くよ。福島から」

「うん、待ってる。私も必ず返事を書くから」

何だ、なんだ? 遠距離恋愛ってヤツか?

周囲が騒がしくなる中、
私たち二人の間に流れる空気だけは、
あの日、二人で窓から眺めたパウダースノウのように、
細やかで、優しくて、そして静かだった。

 

「英二くん、福島って大雪降るよね?」

自分でも驚くほど自然に、その言葉が口からこぼれた。
涙で濡れた頬を、まだ袖で拭いきれていないまま。

「あぁ、降ると思う。少なくとも九州よりは」

英二くんは、少し照れたように笑った。

「だったら! できるよね、スキーも!」

勢いで言った言葉に、英二くんは一瞬きょとんとして、それからゆっくりとうなずいた。

「そうだね」

その“そうだね”が、
まるで未来の約束みたいに聞こえた。

「大人になったらさ、わたし、行くかもしれない。福島のスキー場へ」

言った瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。
英二くんは、少し驚いたように目を見開いて、それから、静かに、でも確かに微笑んだ。

「…待ってるよ」

その声は、雪の上に落ちる粉雪みたいに柔らかくて、
でも、心の奥にしっかりと積もった。

教室のざわめきが遠くなる。
理恵と村田の声も、廊下の足音も、全部。

二人の間だけに、あの日のパウダースノウと同じ、静かで優しい空気が流れていた。

私は思った。

――また滑りたい。
――そしていつか、英二くんのいる福島で。

新たなパウダースノウを夢見て、私はそっと息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

先月、篠崎マロさん率いるオーケストラによるベートーヴェン第九を聴いてきました。生演奏で第一楽章から第四楽章まで通して聴くのは初めて! 音の波が押し寄せるように迫ってきて、ただただ圧倒されるばかりでしたっ! 曲の終盤、マロさんの弓の毛が2本切れ、背後の奏者も同じく2本切れて… 釣り竿が宙に舞っているように見えてしまい、 とても人間業とは思えない😮激しい演奏に目も耳も奪われてしまいましたー‼  

 

今回は最前列の右側の席だったので、マロさんの背中ではなく、正面から視聴できました。目の前には、トロンボーン奏者さんたちが並び、トロンボーンの音色がいつも以上に響いてきましたが。 指揮者はいませんでしたが、マロさんが全身を使って合図し、オーケストラ全体を導いているのは見ていて分かりました。

 

発表当時は、難しい曲のため、演奏者たちからは評判が悪かったらしいですが、 「100年後の演奏者たちは、演奏できる。」 と、ベートーヴェンは、言ったそうですね😮 あらゆる面で凄い!と思いました。 その通りになっていることも、自分の曲が100年後も演奏され続けている!と信じて疑わないことも。実際に200年以上経った今も演奏され続けているのですから! 久石譲さんや、ジョン.ウィリアムズは、100年後も演奏され続けているかなぁ、なんて考えてしまいました。 

 

コンサートへ行ったことを🎻の講師にお話したところ、マロさんの著書、(処女作)

ルフトパウゼ 篠崎 史紀/著

を紹介してくださいました。タイトルはドイツ語で、「ためをつくる」という意味だとか! 一人で演奏するときは、この「ためをつくる」ことを自分の呼吸でやりますが、オーケストラの場合、団員全員が、この間合いを共有するということ。 特に最初の一音を奏でる… コントラバスが最も音が響くのに時間がかかるらしい。なので、コントラバスの最初の一音を聴いて、やや遅れてヴァイオリンが入ると良いのだとか、(ほんの0.1秒程度のことでしょうが…?)難しいことをコンマスのマロさんはやっているのだ!若く走る団員(日本にはあまりいないそうですが…アグレッシブな、といいましょうか)ベテランの団員の間を上手く取り持つような…? 最初の一音を奏でる難しさをコンマスとして担っている姿は印象深い。印象深い話が数多く語られており、また、機会を見つけて語りたいと思います。

 

弓の毛2本同時に切れるほどの激しさと情熱を目の当たりにした体験は、単なる演奏会ではなく「音楽の生きた力」を感じる瞬間でした。音楽は技術を超え、情熱そのものとなり、更に200年先の未来へと響き続けるのだろうな🎵

 

 

 それは――ほんの小さな勘違いから始まった。

いつものように陳列棚へ届いたばかりの商品を並べていた時のこと。五歳の長男に手を引かれた三歳の娘が、私に声を掛けてきた。

「おねーちゃん、迎えにきたよ!」

三世代同居の我が家では、私は二児の母でありながら、両親にとっては長女。だから両親も妹も、私を「おねーちゃん」と呼ぶ。その呼び方を耳にして育った末っ子も、自然と「ママ」ではなく「おねーちゃん」と呼ぶようになった。

その声を耳にした常連の青年が、笑顔で言った。
「妹さんと一緒なんですね。可愛いボディーガードだ!」

大学入学当初から通ってくる青年。卒業後は市外に就職したはずなのに、どういうわけか店に顔を出し続けていた。――不思議に思っていた矢先、彼から突然の告白。

正直、戸惑うばかりだった。化粧もせず、おかっぱ頭の私を同世代だと勘違いしているのか、ため口で話しかけてくる。そこで、私は母であること、夫を亡くしていること、そして子どもを育てることが最優先で恋愛どころではないことを告げた。

その時、店内に流れるBGMが、Wham!の「ラスト・クリスマス」に変わった。何かの暗示だろうか。

「あ…ははは…」

気まずい空気が流れる中、私は力なく笑った。
青年は私の顔をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。

「どうせ嘘なら、もっと上手につけばいいのに…」

 

 翌朝から、彼は店に来なくなった。

あの日は肌寒いクリスマスだった。必ず買っていた水も、もう買いに来ない。季節が巡り、一年、二年…やがて彼の姿は町から消えた。

――それでも、私はいつしか彼の笑顔を思い出すようになっていた。客として、いや、少しは…。

 

 コンビニで働き続け、子どもを育て、気づけば五年が経過した。そんなある日の午後。
「これ、下さい」
背後から聞き覚えのある声。振り返ると、あの青年が! 大人になった彼が立っていた。

「お久しぶりです。良かった、まだここにいてくれて。この街を離れた後も、時々思い出しては、ずっと忘れられなくて…」

かつてため口だった彼の言葉は、丁寧語に変わっていた。
「梅子さんの人間味ある会話に救われていました。学生生活も、新入社員の一年も、あなたのおかげで乗り越えられたんです。」

十年という歳月――私も、彼も、ただ懸命に生きてきた。だけど、なぜ、私の名を?

「それは…店長さんが梅子さんって呼んでいるのを耳にしたから。古風な名前だなって、印象的で。」

古風――そう言われると、子供の頃から江戸時代の女だとからかわれた名前も、少し誇らしく思えた。

「ところで、あなたの名前は? 最初に出会ったときはまだ学生さんで、あれから十年も経ってから名乗らせるのも、なんだけど…」

少し遠慮がちに聞いてみる。

「南です。」

彼は赤面した。

「南ちゃん? これはまた、現代的で可愛い名前ねぇ」

「いえ、南は苗字です。」

慌てて打ち消す彼に、下の名を問うと、はにかみながら声をひそめて「光男」と教えてくれた。

「みつお…さん? これまた、古風だわね?」

お互いの顔を見合わせて笑った。

店内で商品を見ていたお客が数名、何事かと振り返り、私たちはまたもや笑ってしまった。優しい時間が流れていく。こういうのも悪くない。

 

 いつしか私たちは店の外で時々お茶をする仲になった。付き合うわけではない。ただ、互いの暮らしの中で、ささやかな支えとなる関係。

「シングルマザーとお茶友達っていうのも、悪くないかもね?」

そう言うと、彼は目を伏せて力なく笑った。

 

 彼と再会してから半年が過ぎ、あと数日でクリスマスイブという日。

「クリスマスは会えないけど…サンタ業務、代理でお願いしてもいいですか?」
そう言って、彼から手渡された袋には、子どもたちの笑顔を想像して選んだらしいプレゼントが入っていた。
「報酬は、来年のホットココアで」
私は笑いながら受け取った。――なんだか、悪くない。

 

 明日からクリスマス商戦。仕事が終われば子どもたちが待っている。
一緒に飾り付けをしなきゃ。ホームパーティーのプランを頭に描きながら、私は彼と別れ、店へ戻った。

クリスマスのイブも、クリスマスも会えないけれど――

両手に乗せられた2つの包みを手に、彼のあったかさを感じていた。

仕事を終え、外へ出ると、街中のクリスマスの灯りが、静かに彼の想いを照らしていた。

Merry Christmas!

この著書を知ったのは、大好きな作家、有川ひろさんがご自身の著書、【物語の種】の中で紹介していたから。ちょうど、コロナで社会生活が制限され、舞台もコンサートも見に行けない、そんな時期。

 

家電メーカーの中年所長が抱える秘密の趣味、すなわち宝塚歌劇団の熱狂的ファンだということが、ひょんなことから、社員の一人に秘密がバレるのですが、彼女も実は熱狂的なファン!所長と女性社員の二人は意気投合!更には女性社員に気がある年下男性社員も巻き込んで… そんな短編 『Mr. ブルー』など、全10篇を収録。

 

出来る限り、人が集まる場所へ行かず、自宅で過ごすことを余儀なくされたコロナ時代だからこそ、生まれた企画かも。物語の種を読者を中心に有川ひろさんが募集。

読者の投稿を「種」とし、物語を育てるなんて! こんな形で大好きな作家さんと繋がるなんて! 種を拾ってもらい、物語にしてもらったファンはたまりませんよね。

 

更には、そこから、実際、歌劇団の男役だった天真みちるさんは元宝塚歌劇団の「たそ」さんの本を手にすることになったのですから!

種から芽が出て、人から人へと広がっていくって楽しいです。

 

ここで質問。あなたには、秘密にしている趣味がありますか?

自分の場合、趣味はバイオリン、作詞作曲、エレクトーン演奏、読書、コロナ前は旅行も。お寺や神社巡り、歴史が好きなので。

ヴァイオリンについては、仕事が終わって職場からレッスンへ直行するため、「それ、ギター?」と複数の人に聞かれ…バ・レ・タ!

作詞作曲エレクトーンについては、秘密…誰にも話していない。

ただ、自分の場合、知り合いがブログを知っているので、黙っていても、バレてる…

現職場の人には、SNSは何も知らせていないので、知らないですが…。

 

 

旅の空に  🛫
ヴァイオリンの音色を重ね  🎻
読書の余白に  📚
作曲の旋律を芽吹かせる  🎵
――こうして咲く、私の種☘

 

隠された情熱も 🔥
日常の秘密も  🤐
物語の種となり  🍀
静かに花を咲かせるでしょう🌸
 

黙っていることは
隠すことではなく
守ること――
心の音色が💖
誰にも邪魔されず
咲いていくために🌹

 

有川さんのお勧めだから、絶対!面白いに決まってる!と図書館予約して、一気読みしました。天真みちるさんは元宝塚歌劇団の「たそ」として知られ、退団後にエッセイや著書を複数出版しているだけあって、愉快痛快、失敗談もギャグにしてしまうあたり、まるで、『とある街のとあるスーパー』を連載していた頃の自分みたい…。

 

舞台の光に  
笑いと涙が交差する  
その人の物語は  
隣に立つ者の影をも  
温かく照らす
 

十五年の時を越え  
舞台の記憶は  
今も胸に生きている  
――笑いながら歩む人の物語
 

 

 とても分厚い本で、図書館の秋のお勧めコーナーに置かれてあり、存在感がありました。

迷わず速攻で手にし、待ちきれずに帰宅途中のバスの中で読み始めたほど!目がハート

村上春樹さんと対談形式で綴られてあり、小澤征爾さんが若かりし頃に出会った斎藤先生や、カラヤン、バーンスタインとの思い出を語っています。

 村上春樹さんが洋楽に詳しいのは、これまでに読んだ小説からも知っていましたが、ここまでクラシックに詳しいとは!

しかも! 音楽の聴き方を知っている! 自分は何も知らない! 感覚的に聴いているだけ…ガーン お二人でクラシックレコードを聴きながら、「あの時の、あの演奏はどうだった、こうだった! ここは…」

 まるで、目の前で二人の話を聞くような気分で、自分も文字を追い続けました。

 

 出版社の紹介文はこちらです↓

 

「良き音楽」は愛と同じように、いくらたくさんあっても、多すぎるということはない――。グレン・グールド、バーンスタイン、カラヤンなど小澤征爾が巨匠たちと過ごした歳月、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーの音楽……。マエストロと小説家はともにレコードを聴き、深い共感の中で、対話を続けた。心の響きと創造の魂に触れる一年間にわたったロング・インタビュー。

 

 私は二日で読み、今は母が読み始めたところです。

元々、祖父、そして母がクラシック好きで、自分もかなり遅れて…40代になった頃、クラシック音楽に興味を持ち、コンサートへも出かけていくようになりまして…ニヤリ

 

 秋の夜長に クラシックを聴きながら…

お読みください~ 豊かな時間が流れます~♬

 hydraenidsさんの体験談(ブログより引用) リンク出来なかったため、興味がある方は、検索して下さい🎵 

彼は、40代で当時4歳だったお子さんと一緒にスズキメソードを開始。 お子さん二人は途中でやめてしまったが、ご本人はハマって11年継続。 -スズキメソード10巻を卒業し、現在はヴィターリのシャコンヌに挑戦中、という凄すぎる経歴の持ち主さんです。 以下、カッコ内はブログから引用します:

 

 「大人になってからヴァイオリンを習い始めた人だと分かると思うが、初心者の頃は「大きい音」を出すのが意外と難しい。下手に右手に力が入るとギギッと雑音が入るし、力を抜くと変にかすれた音になってしまう。一方、先生の弾き方を見ると、ほとんど力を使わずに、信じられないほど大きい音が朗々と出る。この違いを生み出すのは「脱力」にある。ヴァイオリンを弾くときは、全身の力を抜かないといけない。特に右手の脱力は重要で、弓を落としそうになる限界近くまで、指と手首の力を抜く。弓をごく軽く持ちつつ、腕を下げて、その重みをそのまま弦に乗せ、弦を「薄く削って掘る」ような感覚で弓を運ぶ。 自分の場合、これを体得できるまでに5, 6年は掛かった。ヴァイオリンの演奏は、左手よりも右手の使い方の方が圧倒的に難しく、奥が深い。左手で作る音程は慣れれば意外と取れるようになるが、右手の方は、変なクセが付いているときに自分で気付くのが難しい。」(ここまで、引用終わり🖋)

 

  その通り!なのです!ウクレレも演奏するので、右手(ストローグ)する手の脱力も大事なのは分かりますが、ヴァイオリンはそれ以上に…何倍も実際、難しい💦 先週のレッスンでも、「基本のボーイングが難しくて💦」と帰りに愚痴ってしまいました。ぎぎって雑音が入ったり、カスレ音になったり💦 美しい音色を出すには、弓がまっすぐ、真ん中を通ることが大事で… 斜め横から見ると、まっすぐに見えても実際はそうじゃない💦 まだまだ先は長い…💦

 

 自分の演奏…YouTubeで検索しても出てこない💦…と思ったら…

以下をクリックすると、自分の動画が表示されました。😅