理人side


「池﨑くん!

今日からアルバイトに入る髙塚くん

バイトの先輩として色々と教えてね」


「あ、あの、た、髙塚です。

よ、よろしくお願いします」

あまりにも深々と頭を下げられて、

「こちらこそ…」

思わず深々と頭をさげた


華奢な子だなぁ…って思ったのが第一印象で

力仕事がメインのバイトに大丈夫なのかな…

金髪に黒縁メガネ姿にちょっと引いてしまうけど、バイトの先輩として頑張らねば!


2週間後のバレンタインデーに向けて

バイト先のデパートは大忙しだ

特に開催中のチョコレートフェスタは

有名なパティシエやら高級ブランドのチョコが

勢揃いする大人気のイベントで

バイトの俺たちはデパートの別館の1階に入荷する

何百種類のチョコレートを管理する仕事だ


「髙塚くん、チョコレートが入荷したら

図面を見ながら運んでくれる?」


ストック場所は倉庫みたいに広くて

大丈夫かな…と思いつつも

図面を渡した


「はい」


素直にじっと図面を見つめると


「この仕入先別の並び方は法則がありますか?」


「あ、いや、特にないみたいだけど…

まぁ、売上が高いトコが入口に近いよね」


「分かりました。図面を確認してから

チョコレートを運びます」


真面目な顔をして図面を見ながら、

ストック場所を確認している


金髪のチャラい子かと思ったけど

しっかりしてるし、頭も良さそうだし

良かった…


他に大学生やら主婦のバイトも10人位は

いるけど、見た目よりも地味な仕事に

無断欠勤したり、チョコレートを雑に

扱って困ることも多い



「りひとくん、今年もよろしくね」


バイトの佐野さんがニコニコして

手を振った

穏やかで優しい佐野さんはベテランで

頼りになる人だ


「あら、新しいバイトくん?」


「はい、髙塚です。よろしくお願いします」


また、深々と頭を下げた


「可愛いわね〜、いくつ?」


歳も聞いてなかったな


「高校3年です」


「あら、受験生じゃないの?」


「あ、もう、推薦で大学も決まってるし

あとは卒業式を待つだけなんです。

高校も許可もらってます」


「あら、どこの高校なの?」


「IN高校です…」


「りひとくんの後輩じゃない」


「俺、2年前の卒業生。そう言えば、

体育館の靴箱壊れたままじゃないよね?」


「…まだ、修理してないです…

あ、入荷みたいだから商品取りに行ってきます」


バタバタと搬入口に走って行ってしまった

もうちょっと、話したかったのに


「真面目でいい子ね」


佐野さんは気に入ってくれたようだ



午後からはバイトも増えて来たけど

やっぱり、喋ってばかりのヤツも多くて

実際、社員に言いたいけどバイトだし、

あまり争い事はさけたい


髙塚くんは初日とはいえ、

面倒な図面を覚えたようで華奢な体で

重い荷物も黙々と運び込んでいた


バイトは1週間が経ったけど髙塚くんの仕事振りは変わらずでバイトの2人分は働いていた

高校の後輩だし、色々と話したいのに

休憩時間は読書してるし、声を掛けても

つれない対応に嫌われてんのかと心配になるほどだ


そんな時、ちょっとした事件が発生した


いつも無断欠勤でほとんど仕事もしない数人の

バイト達がチョコレートを投げて遊んでいた


こういう場合は社員に伝えるのがルールで

バイトの一人がデパートの部長の息子で

社員も困った顔をした


これで何回目かよ…


「チョコレートで遊ばないで下さい!」


まさか…あの声は…



「はぁ、何だよ、おまえ」


「おまえら、バレンタインをなめんな!

チョコを買う人の気持ちがわからないのかよ!」


今にも息子に殴りかかりそうな髙塚くんの迫力に

驚いた


「たかがチョコでキモいんだよ」


吐き捨てるような部長の息子の言葉にぐっと

拳を握り締めて、ジリッと息子に詰め寄った


ヤバい、殴るな!

思わず、後ろから抱きしめた


「邪魔するなっ」


瞬間、髙塚くんから左ストレートを受けてしまった

い、痛い…


「すみません、すみません」


髙塚くんの声が遠くに聞こえた…










 

















































仕事は倉庫に荷物が届いたら

商品を仕入先別、品番別に並べて

食品売場やデパートの外商部員から注文がきたら

速やかに正確に食品を届けるのが俺たちバイトの仕事なんだ


2週間後のバレンタインデーに向けて

バイト先のデパートは大忙しになる


チョコレートフェスタ

別会場で開催されるらしく何百種類の

チョコレートがトラックに運ばれてくる


「髙塚くん、あの搬入口にトラックが着いたら

台車でチョコレートを運ぶから」


「は、はい!」