ぼくらの町には塔があった。

ウェディングケーキみたいな格好をした塔だった。

塔のてっぺんにお姫様が住んでいた。

現代のお姫様、女性アイドルだ。名前はカーニー。

彼女は時折、塔のベランダに出てぼくらの町を見渡していた。

ぼくは彼女に恋い焦がれた。

来る日も来る日も塔に通いつめて彼女の姿が見られないか、下から見上げた。

彼女はある日、こんなことを言った。

あたし、アレクサンドロスの大灯台の写真を持ってきた人と結婚する。

アレキサンドリアの大灯台と言えば、十四世紀の二度の大地震で倒壊した世界の七不思議だ。

カーニーはなぜそんなことを結婚の条件にしたのだろう。

かぐや姫のようなことを言って、わたしは結婚する気はないと雑誌記者を追い払ったのだろうか。

でも、彼女は先の宣言に付け足してこう言った。

その時には、このウェディングケーキみたいな塔は本当にウェディングケーキになるのよ。

とすると、彼女は本気らしかった。

けれど、現在失われてしまったものを写真に収めて来いとは無理な相談だ。

そもそも、もし写真を持ってきた男が現れるとして、彼女に真贋がつくのか。

よくある女性の気紛れな意地悪か。

それとも、歴史好きの女性、いわゆる歴女の妄想か。

或いは、なにか深遠な意味のある頓知の一種か。

ぼくにはわからなかった。

けれど、その時から塔の下には求婚者が蝟集するようになった。

それはカーニーが実際に結婚するまでの数週間のうち続いたのだった。

中国のテーマパークに縮尺版の大灯台が建っている。

その写真を持ってくる人が結構多いとレポーターがテレビで言った。

彼女がそれをよしとするでしょうかねえとコメンテーターが嘆いてみせた。

改めてわかったのは、カーニーにはファンが多いということだった。

そしてカーニーは結婚した。

お相手は写真家だった。

彼がアレキサンドリアの大灯台の写真を持ってきたのかは報じられなかった。

カーニーが例の宣言をした時には、すでにふたりは付き合っていたのかも知れない。

彼女は有言実行で、自分の住む塔で結婚式を挙げた。

塔の頂上に巨大なリボンが結わえられ、蝶々結びの両端がゆったりと長く地上まで伸ばされた。

ぼくは遠巻きに、でもやっぱり塔の下で、カーニーの結婚を祝福した。

その時、突然、集まった町の人たちの幾人かが上空を指差し始めると、いっせいに彼らは空を見上げた。

そして、口々に叫んだ。

あれは何だ。

鳥か、飛行機か。

いや、スーパーマンだ。

スーパーマンは塔の上空を勢いよく旋回していた。

右手を前に突き出すポーズは映画とまったく同じだったが、左手は拳を腰に当てるのではなく、胸に当てていた。

心臓病でも患っているみたいに、胸に手を当てたスーパーマンが塔の周りをぐるぐる飛んでいた。

カーニーか、夫になった写真家が、塔のてっぺんから大反射鏡の光をスーパーマンに当てた。

スーパーマンはまぶしさにバランスを崩して、真っ逆さまに墜落した。

地面に急接近するスーパーマン。

ぼくらは息を飲んだ。

でも、地面に落ちるすんでのところで、スーパーマンはひらりと体勢を持ち直すと、今度は一挙に急上昇した。

急上昇したスーパーマンは、遥か空の彼方に消えていった。