「坊ちゃま、わが社はたった今、TOBにより、リッチ&プアーズ社に買収されました。万事休すかと」

「たった今だと。どういうことだ」

「敵対的TOBによる買収です。坊ちゃまには刺激がお強いかと内密に役員会議を開いて対策を練ってまいりましたが」

「馬鹿を言うな。何故もっと早く言わない」

「大変申しあげにくいことながら、畏れ多くも、失礼ながら、坊ちゃまは大変気短かであらせられ」

「なんだ、なんだ、その言葉遣いは。そら、新株予約券とか、何かあっただろ」

「先月来ご説明申しあげておりますが、その度に坊ちゃまはうるさいと申されて。もはや間に合わぬのでございます」

「株式の総数を拡大しろ」

「もはや間に合わぬかと存じます」

「株主確定の基準日を」

「先週ご説明したあれがそうでして、もう取締役会は開けないのでございます」

「お、黄金株とか何かあった筈だ」

「遅きに失したかと」

「終わりなのか」

「終わりです。わが社は壊滅いたしました」

「なんということだ。秘書の杉本君は何処に行った」

「リッチ&プアーズ社のCEOボーデン社長の愛人になられたかと」

「信じられん。この椅子は五十万六千八百三十円で特注したんだぞ」

「勿論ですとも。この社屋にしてからが坊ちゃまの父君、先代社長のお建てになったもの」

「打ちのめされたということか」

「打ちのめされました。あきらかに」

「さあ、泣くんだ、泣いてくれ」

「悲しみに泣いております」

「声をしぼって叫ぶんだ」

「仰せのごとく」

「泣くがよい、苦しみに泣くがよい」

「ああ、ああ、難儀やな、難儀やな」

「まれにみる難儀だ。首を吊ろうか」

「ああ、ああ」

「ああ、ぐらいではいいあらわせんのだ」

「不運なものの不運なものによる不運のための贈り物」

「その白いあごひげをかきむしって踊れ」

「あごひげのなき者、悲し、悲し」

「はおる背広を手の先で裂け」

「悲し、悲しの月見草」

「その髪をむしって社をばいため」

「しかと、しかとつかんで大声に嘆き悲しみ」

「涙に眼を濡らすのだ」

「涙にくれておりまする」


(※作中、アイスキュロス「ペルシャ人」から引用改変あり。作者)