日本は戦後に台湾・澎湖諸島,千島・南樺太がどこに帰属するのかについて連合国(特にアメリカ)に託していたが、アメリカは一つの中国を支持していながらも台湾が平和的な手段以外で中国の領土に戻ることを拒んでいる。
日本は1951年に調印したサンフランシスコ講和条約で朝鮮の独立,台湾・澎湖諸島,千島・南樺太の放棄を規定しているが、帰属先が不明確であるとされている。
特に「台湾・澎湖諸島の放棄」に関しては「放棄」とは書いてあるが「返還」とは書いていないため、紛争の原因になってしまっている。
【参考】
対日平和条約が正称。日本と連合国48との間に結ばれた第2次大戦終結のための平和条約。1951年9月8日サンフランシスコで調印。1952年4月28日発効。日本代表は吉田茂。
前文のほか27ヵ条よりなり日本の主権・平等を承認したが,外国軍隊の日本駐留継続を認めた。
また朝鮮の独立,台湾・澎湖諸島,千島・南樺太の放棄を規定したが,帰属先は不明確のままで紛争の種を残した。
沖縄・小笠原は米国を唯一の施政権者とする国際連合の信託統治下に入ることが予定され,それまでは米国の支配下に置かれることになった。
中国・インド・ビルマ・ユーゴ・ソ連・ポーランド・チェコとは締結しない片面講和条約であり,同時に締結の日米安全保障条約とともに日本を対米従属下においた。
翌1953年中華民国(国民政府)と日華平和条約を結び,インドなど6ヵ国とも1957年までに国交を回復。
日本政府(民主党政権時代)は以下の質問注意書に対する答弁書で「台湾に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄しており、台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行う立場にない」という政府見解を示している。
【参考】
台湾返還に関する質問主意書:質問本文:参議院 (sangiin.go.jp)
台湾返還に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院 (sangiin.go.jp)
しかし、片面講和であるサンフランシスコ講和条約に中国(中華人民共和国)は関わっていない。
台湾は日清戦争の結果、中国(清)から日本に割譲された領土であり、太平洋戦争で日本が敗戦後に放棄されている。
日本は台湾の権利を放棄しているため、今更返還とは言えないのだろう。
また、日本と中国との間には「日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約」があり、安倍や麻生が主張している「台湾有事は日本有事」は完全に条約違反になるし、支離滅裂も甚だしい。
「この条約は、十年間効力を有する」としているが、この条約は現在も継続している。(失効していない)
なお、この条約は日本と中華民国(台湾)との間で交わされた日華平和条約とは異なる。
【参考】
・日中平和友好条約
1978年8月12日、北京で調印された全文5か条の条約で、「日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約」が正式名称。園田直外相と中国の黄華外相とが署名し、同年10月に発行した。72年の日中共同声明を踏まえたもので、平和五原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を発展させること(1条1項)、両国間の紛争を平和的手段により解決し武力や武力の威嚇に訴えないこと(1条2項)、経済・文化関係の発展と両国民の交流促進(3条)などをうたった。
74年から始まった締約交渉でもっとも難航したのは、「覇権条項」であった。これは、ソ連を重大な脅威ととらえる中国が、「覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対する」(2条)ことを条約に盛り込むことを求めたものであった。ソ連との関係悪化を危惧する日本側は妥協を渋り、この条項をめぐっては交渉は長引いた。しかし、76年に「四人組」が失脚し78年から「改革・解放」路線へと政策転換をはかった中国は、経済発展を国家の戦略目標に据えた。そのことは条約締結交渉にも柔軟さをもたらし、「第三国との関係に関する各締約国との立場に影響を及ぼすものではない」(4条)といういわゆる「第三者条項」とセットにすることで、両者の妥協が計られた。有効期限は10年とし、その後どちらかが終了の通告をしてから1年後に失効するとされたが(5条)、2008年現在条約は継続されている。なお、交渉にあたって、尖閣諸島問題は交渉の議題とはならなかった。交渉に主導的な役割をはたした鄧小平がこの問題の棚上げを主張し、日本側も日本固有の領土であり領土問題は存在しないという立場をとったからであった。
その後の日中関係は、上海宝山製鉄所などのプラントの解約問題(81年)や、教科書問題(82年)、中曽根首相の靖国神社公式参拝問題(85年)、小泉首相の靖国神社参拝問題(01~05年)などが続き、ジグザグな足取りをたどってきたが、日中共同声明と日中平和友好条約は、以前として日中関係の基本的な枠組みであり続けている。(堀井弘一郎)
【参考】
1 両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。
2 両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約 (mofa.go.jp)
・追記
条約に期限が設定されている場合は、期限の満了によって条約は終了するようだが、日中平和友好条約では「有効期限は10年とし、その後どちらかが終了の通告をしてから1年後に失効するとされたが(5条)、2008年現在条約は継続されている」とあり、日本と中国の両国がどちらも終了の通告をしていないため、失効していないらしい。
【参考】
日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約
第五条
1 | この条約は、批准されるものとし、東京で行われる批准書の交換の日に効力を生ずる。この条約は、十年間効力を有するものとし、その後は、2の規定に定めるところによつて終了するまで効力を存続する。 | |
2 | いずれの一方の締約国も、一年前に他方の締約国に対して文書による予告を与えることにより、最初の十年の期間の満了の際またはその後いつでもこの条約を終了させることができる。 |
また、日本とアメリカは一つの中国を事実上、支持しており、台湾を国家承認していない。
確かに、日本の一部政治家には「台湾有事は日本有事」などと連呼する狂気じみた態度を取っている者もいるが、それは日本政府の公式見解ではなく、当然、日本国民の総意ではない。
(日本政府は中国政府の立場を十分理解し尊重しているという見解を示しており、台湾を国家承認していないのだから、実態としては一つの中国を支持していることになる。)
【参考】
国際社会では、中華民国を国家承認する国家が少ないため、「一つの中国」は中華民国を国家として承認しないという要求と同義として解釈される傾向が強い。
日中共同声明を踏襲し「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府」と承認 (recognize) し、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」と表明する「中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重する (understand and respect )」 として、現状では中華人民共和国の主張を支持していないが、中華民国の主張も支持しないという立場を取っている。
【参考】
中国本土と台湾は「不可分の領土」であり、台湾は「中華人民共和国」の一部であると中国政府は主張する。中国はこれを「一つの中国」原則と呼ぶ。第2次世界大戦後、中国では毛沢東が率いる共産党が内戦に勝利し、蔣介石の国民党は台湾に逃れた。米国は当初、国民党を支援したが、1972年にニクソン米大統領が電撃訪中し、79年に中国と国交を樹立、台湾と断交した。
78年の米中共同声明は「米国は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であると承認(recognize)する」と明記。一方で「中国はただ1つで、台湾は中国の一部であるという中国の立場」について「米国は認識(acknowledge)する」との表現を使った。「認識はしたが、承認したかはあいまいだ」とみる専門家もいる。米国政府は「一つの中国」政策と呼ぶ。
一方で米国は79年、中国と国交を結んだ直後に「台湾関係法」を制定した。「平和的な手段以外で台湾の将来を決定しようとする試みは、地域の平和と安全に脅威だ」と明記。台湾への武器提供などを定めた。
さらに、ミリー統合参謀本部議長は台湾について、「危急の時には姿を見せるだろう」と言っているが戦うとは言っていない。
つまり、台湾民進党政権は何か誤解をしているのかもしれない。
中国が台湾に軍事侵攻するリスクはそれほど高くないと言われているが、もしそうなったとしても、どこの国とも同盟関係にない台湾は「ウクライナ型支援」を受けることになり、ウクライナのように戦うのだろう。
【参考】
台湾関係法は、台湾の安全保障のための規定を含むアメリカ合衆国の法律である。同法は、カーター政権による台湾との米華相互防衛条約の終了に伴って1979年に制定されたものであり、台湾を防衛するための軍事行動の選択肢を合衆国大統領に認める。米軍の介入は義務ではなくオプションであるため、同法はアメリカによる台湾の防衛を保障するものではない。台湾有事への軍事介入を確約しない台湾関係法に基づくアメリカの伝統的な外交安全保障戦略は「戦略的あいまいさ」(Strategic Ambiguity)と呼ばれる。
アメリカは、国内法規である台湾関係法に基づき、通常の軍事同盟のように台湾に駐留こそしてないものの、武器売却や日本の沖縄県の在日米軍基地などにより、中華人民共和国を牽制している。
アメリカは中国の海洋での影響力が既に第2列島線に到達し、今後、西太平洋全域にまで広がることを最も懸念しているのであって、台湾を何としてでも死守する構えとまでは言えないのだろう。
つまり、日本周辺に集結している米軍は台湾防衛における中国への牽制の意味もあるが、それ以上に、中国による海洋での覇権争いに対抗する意思表示の意味合いの方が強いのかもしれない。
・追記
「台湾有事は日本有事」とはよく言われいるが、「台湾有事はアメリカ有事」とは誰も言っていない。
アメリカは日本に対処してもらおうと思っているのであり、自ら中国と直接的に戦うつもりは毛頭ない。