自衛隊は憲法9条が規定する戦力の不保持に違反していると主張している人達がいるが、自衛隊の前身である警察予備隊はGHQの要請によって創設されており、現日本国憲法もGHQが関与して制定されているのだから、自衛隊が憲法違反の存在であるはずはない。

また、憲法9条は無防備・無抵抗を定めたものではなく、侵略や制裁を目的とした武力行使を否定しているに過ぎない。

 

 

これまで守られてきた憲法9条は次の通り。

 

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

つまり、個別的自衛権については放棄しておらず、国連憲章51条でもそれは認められている。

個別的自衛権とは - コトバンク (kotobank.jp)

 

 

 

なぜ自民党はそれほどまでに改憲したがるのかというと、それはアメリカ政府と台湾政府の意向を受けて台湾防衛または台湾独立のために自衛隊を中国軍と戦えるようにするための法的根拠を得ようとしているからに他ならない。

今、どういう状況に置かれていて、自民党政権がアメリカ政府と台湾政府からどのような影響を受けてきたのか、法整備も含め何をやってきたのかを見れば、そのような見立ては全く先走った誤解でも何でもないはず。

どういう状況で安保法制を可決させ、憲法改正をしようとしているのかを見なければ判断を誤り、いつの間にか日本は他国や他地域の都合で利用され、ある日突然、戦争に巻き込まれる恐れがある。

それは妄想でも飛躍でもなく、憲法改正は中国、ロシアとの戦いに向けた準備であることが本当の狙いのはず。

自民党は緊急事態になったとしても現行法で対応でき、必ずしも憲法改正が必要ではないと自ら認めているにもかかわらず改正するのが望ましいなどと主張しているのだから憲法そのものに不備があるのではなく外部の都合によるものということになる。

 

 

武力行使というのは自衛権にのみ許されることであり、よその揉め事に首を突っ込むためにも武力行使するべきと思っている国民がそんなにいるはずはない。

自衛隊が台湾防衛または独立のために中国軍と戦うことが国益や極東の安全保障上、都合がいいはずはないが、多くの国民はメディアや改憲勢力による響きのいい言葉に欺かれ、改憲や安保法の真意や具体的な内容も知らずに改憲を支持してしまっている。

さらに、最近の流れを見ると、日本がNATOと協調してロシア軍と戦えるようにすることも想定しているのだろう。

今ではロシアと中国の軍事力はアメリカに迫ってきており、アメリカはこれ以上それらの大国が力をつけるのを抑え込もうとしている。※1

そのために日本、韓国、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、ジョージア、ウクライナといった国をNATO側勢力ということにし、中国・ロシア包囲網を完成させようとしている。

しかもニュークリア・シェアリングを同盟国で進め、全方位から中国とロシアを核攻撃できるように準備している。

中国、ロシアからすればアメリカの同盟国が自国を取り囲み、核兵器を自国に向けている状況を快く思うわけはなく、特に日本はそれらの国に隣接しており、アメリカの盾としての役割を期待されているのだから、万が一、戦争状態になったとしたらアメリカは勝つかもしれないが日本は滅ぶと思った方がいい。

最近、ニューヨーク市が核攻撃を受けた場合の対処法を公開するようになったが、ニューヨーク市のアダムス市長は「市当局の取り組みは先を見越したものと称賛し、『人騒がせ』という見方を否定」している。

つまり、今となっては核兵器による報復攻撃が現実味を帯びてきているということらしい。

NY市が核攻撃サバイバル動画公開、「直接の脅威なし」と釈明 | ロイター (reuters.com)

 

西側諸国、中国とロシア、日米韓のままでいいと思うのだが、最近のアメリカまたはNATO加盟国は自殺願望があるらしい。

どうしても今のうちに中国とロシアを弱体化させたいようだが、そんなことは上手くいくはずがないだろう。

中国とロシアを弱体化させるのではなくアメリカがもっと強くなるべきであり、その方が建設的で健全な精神のはず。

基本的には中国・ロシア側からすれば世界大戦を望んでいるというわけではなく、台湾問題やウクライナ問題はお家騒動の類であり、干渉して欲しくないということなのだろう。

しかし、アメリカや西側諸国はこの問題に積極的に介入し、事を荒立たせている印象を受ける。

特にロシアについて脅威を煽っているが、ロシア側はウクライナとジョージアに対してNATOに加盟しないように再三にわたり要求していたのだから、やはりロシアがNATOと戦うつもりがあるとは考えにくく、緩衝地帯が欲しいということのはず。

NATOは既にロシアを敵国認定しているのだから、日本がNATO側としてロシアと戦うという意思を示すのであれば当然日本にとってもロシアは敵国ということになってしまう。

日本とロシアは隣国なのだから、日本人にとって余計なことに首を突っ込んで戦争に参加することが本当に望ましいのか自分で考えるべき。

日本がロシアと戦争をする理由などないはずだが、積極的平和主義やら集団的自衛権の行使やらでそれを強引に正当化しようとしている勢力がある。

日本も北方領土問題を抱えており、ロシアは脅威のはずだと主張している人達もいるが、そもそも北方領土問題はヤルタ密約が事の発端なのであり、その後、歯舞、色丹の二島返還であればロシア側は妥協できるという姿勢だったが、どうやら日本側の外交の失敗によって潰えてしまっている。

なぜロシアは歯舞、色丹だけは返還してもいいという姿勢を見せていたのかというと、これは恐らく単純なことであり、歯舞、色丹の二島だけであれば日本とアメリカの潜水艦や軍艦が千島列島を通過することができず、ロシア側は自由に千島列島を行き来できるためなのだろう。

現在、ロシアの一部政治家などに北海道について問題発言している人もいるが、それはロシア政府としての見解ではなく、ちょっとした揺さぶりをかけているようなものなのだろう。(あまりにも厳しい経済制裁を科している日本側への牽制)
【ヤルタ密約秘話】英外務省、露の北方領土領有の根拠「ヤルタ密約」に疑念 「ルーズベルト米大統領が越権署名」 外交公電で全在外公館に警告 - 産経ニュース (sankei.com)

(経緯を踏まえればアメリカは北方領土に対しても注視するべき立場にある)

 

 

 

自民党は憲法改正草案で憲法9条に「第九条の二」を新設し、自衛隊を国防軍 ※2 に変更し、「国際平和活動に参加できる」としているが、これこそが抜け穴であり、日本が積極的に国際紛争に介入して武力行使できるようにするための根拠にしようとしている。

自民党案でも武力を国際紛争を解決する手段としては用いないとしているが、二項で「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」という大幅な変更が加えられており、ここで言う「自衛権」とは集団的自衛権も含むのかどうかが明記されていない

自民党が主張する「平和主義」とは故安倍氏がしきりに訴えていた「積極的平和主義」のことである可能性が高く、二項はそのための抜け穴なのだろう

岸田内閣総理大臣は「安倍元総理の遺志を継ぐ」としているのだから、やはり「自衛権」というのは「集団的自衛権」も含むのだろう。

同盟国アメリカが軍事行動を取る時、自衛隊は従来通り後方支援活動をすることが多くの国民から期待されているはずであり、自民党が主張するような集団的自衛権の行使といった大幅な現状変更を望んでいる国民は多くないと思われる。

「安倍元総理の遺志を継ぐ」岸田総理のカラーは?|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト (tv-asahi.co.jp)

 

また、自民党は「第九条の三」を新設し、徴兵制を匂わせるような文言を入れている点も留意するべき。

 

 

 

・自民党案

(平和主義)

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない

 

(国防軍)

第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。 

2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる

4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。

5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

 

(領土等の保全等)

第九条の三

国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

日本国憲法改正草案 Q&A(増補版) (nifcloud.com)

 

 

 

自民党は全く国民に周知することもなく、議論することもなく、緊急事態でなくても首相に強い権限を持たせることも密かに進めている。

自民党こそが民主主義を軽んじているとしか思えない。

 

 

 

・自民党案

(1)行政各部の指揮監督・総合調整権現行憲法及び内閣法では、内閣総理大臣は、全て閣議にかけた方針に基づかなければ行政各部を指揮監督できないことになっていますが、今回の草案では、内閣総理大臣が単独で(閣議にかけなくても)、行政各部の指揮監督、総合調整ができると規定したところです。

(2)国防軍の最高指揮権72条3項で、「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」と規定しました。内閣総理大臣が国防軍の最高指揮官であることは9条の2第1項にも規定しましたが、内閣総理大臣の職務としてこの条でも再整理したものです。内閣総理大臣は最高指揮官ですから、国防軍を動かす最終的な決定権は、防衛大臣ではなく、内閣総理大臣にあります。また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます

(3)衆議院の解散の決定権54条1項で、「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する」と規定しました。かつて、解散を決定する閣議において閣僚が反対する場合に、その閣僚を罷免するという事例があったので、解散の決定は、閣議にかけず、内閣総理大臣が単独で決定できるようにしたものです。

日本国憲法改正草案 Q&A(増補版) (nifcloud.com)

 

※(3)は内閣総理大臣が衆議院の解散を拒否すれば解散させないようにすることができるのかどうか不明。

つまり、内閣総理大臣が衆議院を解散させたくない場合は、いつまでも解散させないようにできるのかどうか。

 

また、自民党は、首相と閣僚は都合が悪い時は議院から出席を求められても拒否することができるように変更している。

 

 

・自民党案

第六十三条

内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、議案について発言するため両議院に出席することができる。

2 内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、出席しなければならない。ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。

日本国憲法改正草案 Q&A(増補版) (nifcloud.com)

 

 

 

緊急事態条項についても、南海トラフ地震や首都直下地震を想定し、そのような災害発生時には一時的に内閣の権限を強化するとしているが、阪神淡路大震災や東日本大震災発生時において、緊急事態条項がなかったために活動することが困難だったと訴える現場の声は実際には全く存在していない。

また、「緊急事態」というのは災害に限ったことではなく、戦争についても想定しており、友軍を支援するために集団的自衛権の行使をし、相手側から先制攻撃を受けたと受け止められれば日本本土が攻撃対象になる可能性も排除できないのだから、その時にも「緊急事態」ということになるが、内閣がどのように権限を強化し、戦争状態に対応するのかも全く説明されていない。

その時、自民党政権は「卑劣な蛮行、許せぬ」とでも言って国民総動員で中国軍、ロシア軍、北朝鮮軍と申し訳ないけど最後まで戦えとでも言うのだろうか。

やはり最近のアメリカからは戦う意志が感じられず、自らは直接関与せず、同盟国の方に対応してもらおうという方針なのではないかと思ってしまう。

緊急事態条項

「大きな災害や戦争などが起こった緊急時に一時的に権力分立を停止して一定の人権を制限しながら非常事態に対応する規定」

 

 

 

・自民党案

「緊急政令は、現行法にも、災害対策基本法と国民保護法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」をいう。以下同じ。)に例があります。したがって、必ずしも憲法上の根拠が必要ではありませんが、根拠があることが望ましいと考えたところです。」

緊急事態の宣言の効果として、国民保護のための国等の指示に従う義務(99条3項)、衆議院の解散の制限や国会議員の任期及び選挙期日の特例(99条4項)を定めています。」

日本国憲法改正草案 Q&A(増補版) (nifcloud.com)

 

 

 

このまま自民党に政権運営を任せ、国民に改憲の真意を伝えないまま強引に世論を誘導し、改憲してしまった場合、多くの国民は結局は戦争に巻き込まれ、泣くことになるだろう。

自民党は憲法9条1項を改正しても基本的な意味は変えないとしており、戦争は国際法上違法になるため、自衛権と制裁のみ武力行使できるようにするとしているが、それが侵略戦争や制裁戦争とどう区別できるのか説明することはできない。

 

有権者の側も自民党をはじめとする改憲勢力が主張する改憲の必要性について何ら真意を知ろうともせず、現在起きている国際情勢の流れについても他人事のように捉え、このまま自ら憲法改正に賛成票を投じてしまうのであれば、後で大変なことになった時に「そういうものだとはあの時何も知らなかったの。だってメディアも政府も何も教えてくれなかったじゃん!」といった言い訳をすることはできない。

(皆、改憲しても自分達は戦争に巻き込まれることなどないと思っている)

 

安保法制を強引に可決させ、改憲にも非常に前向きで、積極的平和主義を掲げ、台湾防衛または独立に熱心であった安倍氏の死を利用し、「我々は英雄である安倍さんの遺志を継ぎます」といったバカげた空気を作り出しているようだが、自民党をはじめとする改憲勢力、アメリカ政府、台湾政府も含め、誰もそんなことをしても得などしないだろう。

 

 

自民党は102条1項を新設し、「国民の憲法尊重義務」を定めようとしており、国家の権力を憲法で縛ろうとしているのではなく、国民の人権を憲法で縛ろうとしている。

 

 

 

・自民党案

「公務員に関しては、同条2項で憲法擁護義務を定め、国民の憲法尊重義務とは区別しています。すなわち、公務員の場合は、国民としての憲法尊重義務に加えて、『憲法擁護義務』、すなわち、『憲法の規定が守られない事態に対して、積極的に対抗する義務』も求めています。」

 

 

 

嘘ばかり吐いて民主主義をあからさまに否定し、国民の人権を著しく制限し、国に不必要な強すぎる権限を持たせようとしている自民党を支持している人達は考え直した方がいい。

このまま彼ら改憲勢力がどのように憲法改正をしようとしているのかを知らされず、国民投票で賛成票を投じてしまう流れが継続すれば、誰も得をする者などいない。

 

 

 

・追記

※1 ロシアの防衛予算はアメリカの1/5程度まで減少していたため、アメリカはロシアを脅威とはみなしていなかったという話も見るが、ロシアがアメリカを相手にする場合は核兵器を通常兵器のように使用するのだろうから戦える相手ではないはず。

潜水艦から発射後に海面スレスレまで降下して低高度で飛行できる「カリブル」、ツァーリボンバの2倍の威力があるとされる核魚雷「ポセイドン」、複数の核弾頭を搭載可能で米ミサイル防衛網を無効化できるとされるICBM「サルマト」、核弾頭搭載可能な極超音速空対地ミサイル「キンジャール」、といった終末兵器を普段から見せびらかしているが、本当に脅威ではないなんて言える相手なのかどうか。

ロシアはアメリカに次ぐ世界第2位の武器輸出国で、積極的に兵器開発をし続けている。

ロシア製システムを導入している国はロシアから部品やサービスを購入するしかなく、今後もロシア製兵器は需要が続くはず。

ビジネスというのは需要が続く限り成長もする。

ロシアとウクライナは世界で武器の争奪戦 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 

 

※2 自民党はかねてより憲法9条に「自衛隊を明記」するとしてきたが、実際には自衛隊を明記せず、その代わりになぜか国防軍を明記しようとしている。

なぜそのような不必要な名称変更を試みているのかというと、台湾有事の際に安保法制や憲法改正による法的根拠に基づき、自衛隊が台湾軍と共に中国軍と戦い、壊滅的な打撃を受けた場合、在日米軍が日本の国防を担うことが可能になるという意味なのかもしれない。

 

・追記

「国防軍(defence force)」と名乗る軍を調べてみると、必ずしも専守防衛をしているわけではなく、また、アメリカとイギリスの軍事行動に付き合わされているような印象を受ける国名が並んでいる。

国防軍 - Wikipedia