2018年10月のテーマ
ちょっと怖い魔女が出てくる本
第一回は、
「魔女がいっぱい」
ロアルド・ダール 著、清水達也/鶴見敏 訳
クエンティン・ブレイク 絵
児童図書館 文学の部屋 評論社 1987年発行
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魔女がいっぱい (児童図書館・文学の部屋)
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です。
ロアルド・ダールはイギリスの作家で、映画になった「チャーリーとチョコレート工場」(原題は「チョコレート工場の秘密」ですが、ここでは「チャーリーとチョコレート工場」で通させていただきます。)も彼の作品です。
私は児童文学作品しか読んだことがありませんが、小説家であり脚本家でもあったようです。
彼の物語は語りぶりが巧みで、どんな展開になるのか夢中で読んでしまいます。
また、ダールと何度もコンビを組んだというクエンティン・ブレイクの挿絵が、「魔女がいっぱい」では本当にいい味を出しています。
おすすめポイントは"子供に危険な怖い魔女をやっつけろ!"です。
ハロウィンにピッタリなこわーい魔女。
この「魔女がいっぱい」という物語は、本当にたくさんの魔女が出てきます。
魔女は人間の中に正体を隠して溶け込んでいて、常に子供たちを狙っています。
外見的にわかる特徴はあるのですが、上手にそれを隠しているのです。
子供たちを狙うのは、この世から消してしまうため。
子供からは魔女にとっては我慢ならない臭いにおいが出ていて、そのため魔女は子供が大嫌いなのです。
しかも魔女は世界中にいて、秘密結社を作っています。
魔女に出会ってしまった主人公の少年と元魔女研究家のおばあちゃんが大勢の魔女に立ち向かう・・・そんなことできるのかな?やってみなくちゃわからないでしょ!怖くてどきどきしながらも、二人の活躍を期待してしまうのがこの物語です。
初めて読んだとき、私はとてもショックを受けました。
大人になってから読んだのに、いや、大人だからこそ、魔女たちの存在が怖かったし、魔女の残酷さが余計に目をひいたのかもしれません。とにかく強い印象を受けました。
二度目に読んだときは、もう少し余裕をもって物語を味わうことができました。
そして気づきました。主人公の少年がとてもポジティブで、怖いと同時に愉快な物語になっていることに。
どんな境遇になっても知恵を働かせ、ポジティブに解決法を考える少年と、やさしくてタフなおばあちゃん。
二人のやり取りはいつも愉快で力強い。
それがこの物語の魅力だと思います。
ダールの作品について、少し感じたことがあります。
「チャーリーとチョコレート工場」にしろ、「魔女がいっぱい」にしろ、主人公は恵まれない境遇の子供です。
「チャーリーとチョコレート工場」のチャーリー君は家が貧乏でお父さんが苦労して家族7人を養っていたし、「魔女がいっぱい」の少年は両親が死んでしまっておばあちゃんと二人暮らしになります。
でも、その境遇のせいでひねくれたりしない。どちらも明るくて優しい主人公です。
主人公のキャラクターがお話を愉快に、楽しいものへと引っ張って行ってくれる。
一方でお話には作者のとてもシニカルな視線を感じます。
すごく感じの悪い子供、自分の都合ばかり考えている大人や、子供の力ではままならない社会の仕組みなんかが物語の骨組みに組み込まれています。
私は前述の二作の他には「マチルダはちいさな大天才」という作品しかロアルド・ダールの作品は読んだことがありませんが、少なくともその三作品からはロアルド・ダールという作家の個性が強く感じられました。
子供向けのお話なのにすごくシニカルな作品を書く作家、とでもいえばいいでしょうか。
それでいて全体としてはとても愉快なお話になっている・・・。
以上を踏まえて「魔女がいっぱい」の話に戻しますと、とても怖い魔女のお話であると同時に、少年とおばあちゃんコンビの愉快な冒険譚でもあるのがこのお話です。
恐ろしい大魔女はある意味で滑稽。
少年の逆境は一転して武器に。
作者の語り口にどうぞ身を任せてみてください。
あなたにも私と同じような驚きが訪れるかもしれません。(*^▽^*)
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