未だに「抱っこ」

 3歳の息子くん、未だに抱っこをせがんでぐる。それは歩き疲れた時に限らない。朝、自宅から駐車場までの間。保育園内の数歩の移動ですら「抱っこ」である。

 20名を超える同じクラス内で、抱っこで登園しているのは私が知る限り息子くんともう一人の男の子だけだ。

 もちろん歩くときはひたすら歩いてくれるし、嫁さんには却下されることがわかっているのか要求することはほとんどない。義母に至っては抱っこしていて転んだ一件以来抱っこをせがまなくなった。そう、ちゃんと人を選んでいるのだ。

ネットの育児相談を見てみると、こんな質問が…

「もう2歳なのにまだ抱っこを要求してきます」

うちは、来月には4歳なのに…。

「赤ちゃんの頃からの抱き癖が」

「とにかく最初が肝心」

「スキンシップは大事。好きなだけ抱っこしてあげて」

いろんな意見があって正解なんてわからない。
そもそもこうなった経緯に思いをはせてみる。

距離が縮まったきっかけ

 0~1歳のころ、絶対的な存在のママと比べ、私とは見えない距離を感じることがよくあった。ママが近くいる状況であれば私とも機嫌よく接してニコニコ笑って遊んでくれるのに、私一人で公園などに連れ出して二人きりになると「むすっ」っとしてつまらなそうにするのが常だった。
 


 そんな状況が一変する出来事が起きた。2歳をすぎたころ、息子くんがRSウイルスに罹患。高熱で苦しみ、嫁さんと交代で会社を休んで看病にあたった時のこと。そのころ始まったイヤイヤ行動に体の不調が拍車をかけて手が付けられない状態になったかと思えば、一転。熱があがると苦しそう、不安そうな表情でこう求めてくるのだ。

「だっこ」

 クルマ好きの息子くんの気が少しでもまぎれたらと、抱っこしてベランダに出てあげて道行く車をみせてあげた。

「あっ、トラックきたね」
「ベンツきたよ」
「白いのはアルファード」

 いつものように実況してあげても、顔をちらりとあげて一瞥しただけですぐにぎゅっとしがみついて肩に顔を埋めてくる。ほとんど車なんて見ていない。

「もういい?部屋に戻るよ」

ところが、部屋に戻るのはこう言って断固拒否するのである。

「イヤッ、だっこっ!」

いや、さっきからずっと抱っこしてるし。

「おうちに入っても、抱っこしてあげるから」

「イヤッ、だっこっ!」

 1時間が過ぎても押し問答は続いた。そのころでも体重は10Kgは超えていたので、さすがに腕も腰も辛くなってきたが、ここで腹をくくった。

『こんなに小さな体で未体験の不調や不安と闘っているんだ。とことん限界までつきあってあげよう』

 最後には寝てしまって部屋に戻ってからも、目覚めて世話をするときも常に抱っこしてあげて片手で用事をすませることにした。イヤイヤ行動もこのときばかりはサンドバッグのように全部受け止めた。たとえ飲みたくないミルクをわざと床にぶちまけられたとしても…。

 1週間ほどしてようやく体調は元通り。今思い起こせば二人の関係性に変化が現れたのはこの後からだったようだ。

 二人きりで出かけても、とびきりの笑顔を私に向けてくれるようになったのだ。楽しいこと、嬉しいことを共有しようと目を見て訴えかけてくれる。
 

 
あの日の「抱っこ」が信頼関係を築いてくれたんだと思う。

いつまで続く?

 もうすぐ4歳、体重も15Kgを超えて出先で荷物を持った状態での抱っこは非常に辛い。
 
でも私はこう考えるようにしている。
 

抱っこしてあげているのではない

抱っこさせてもらっているのだ


 わが子を抱っこできる期間なんて限られている。どんなに長くてもあと数年。もしかしたら明日にはもう抱っこを求められなくなるかもしれない。

 授乳だって、指しゃぶりだって、あんなに可愛かった片言の言い間違いだってそうだ。ある日突然終わってもう二度と戻らなかった。

 両手をあげて上目遣いで抱っこを求めるしぐさ、抱え上げてしがみついてくるこの感触。遠くない将来きっと恋しくなるに違いない。
 
”抱っこさせてもらっている間” もうしばらくは堪能させてもらおうと思う。