194 やぶのつぶやき

  衣食住について考える(1)

 いずれも人の生活の基本となる条件です。 この3つの条件にランク付けをするとしたら、どうでしょう? 

 

人に限らず、生き物は食べなければ命をつなぐことは出来ません。従って、小生は「食」を最も大切な条件に挙げます。このことに関しては、多くの人も異論がないと思います。 

自然界には「弱肉強食」という言葉があるように、「食」は生態系が成り立っている大原則です。その頂点に立つ人類も例外ではなく、有史以前から現代まで、「食」確保のため、他の生き物とは勿論、人類同士の争いもし続けて来ました。実際に「多くの食」を確保した種ほど、多くの子孫を残すことが出来ました。人類の歴史は「食」を確保するための「争いの歴史」とも言えます。

 

ただ、人類が他の動物と違うところは、単に「生きるため」だけに食べるのではなく、食を「味わって楽しむ」ようになったことです。火の扱いを知り、調理・加工することを覚え、栄養面だけでなく、より美味しく、美しく盛り付けることで、1つの文化にまで発展させたことです。

 

例えば、「京の会席料理は三度味わえ」といいます。まずは「目で味わえ」です。料理が出たらいきなり箸を付けないで、2~3分間は、修行を積んだ板前が鮮やかな包丁さばきで形を創り、色彩豊かにこしらえた膳の出来栄えを、じっくり眺めて「味わう」のです。

 

次いで「鼻で味わえ」です。ワインのソムリエや日本酒の利き酒をする人など、特別に味覚・嗅覚の優れた人もいますが、嗅覚に関して言えば、麻薬犬の嗅覚はヒトの約1000倍の感度だそうで、動物と比べるととても敵いません。しかし通常の人でもウナギやサンマを焼く煙の匂いには、食欲をそそられます。コーヒー豆を焙り、お茶を煎じる香りを好ましく感じる人は多いと思います。 世界各地の料理にもそれぞれ独自の香辛料やスパイスの香りが施されています。 とくに日本料理の板前さんには、煮物や汁物から立つ微妙な「だしの香り」に、こだわりがあるようです。

 

そして最後に「口(舌)で味わえ」です。しかし、食べ物の好みには個人差があります。 舌の表面には味蕾という、味を感じる器官があります。従来の「塩っぱい、酸っぱい、甘い、苦い」の4種類に最近は、第5の味覚として「旨み」が加わったそうです。医学的には、この味蕾で感知した化学刺激が、12対ある脳神経の一つである舌咽神経を介して、大脳皮質に伝えられ、「旨いとか不味い」という味として、個々人が知覚すると言うことです。

この5つの味覚が微妙に混り融合して、個々人の好みとなるので、生い立ちや年齢や会食時の雰囲気などの条件により、各人に差が現れるのは当然だと思います。 

小生の経験でも、札幌在住の70代のゴルフ仲間は、漁師の次男坊に生まれ、子供の頃から毎日魚ばかり食べさせられていたので魚を苦手とし、会食すると豪華な海鮮料理には手を付けず、ひたすらジンギスカン鍋を好物にしていました。 

また地元の自称グルメのマダムは、ランチ巡りをして「穴場の店を見つけたわよ」と自慢するので、彼女の勧める店へ期待して行って見ると、案外だったことが何度もあります。どうも自称グルメの舌というのは、当てになりません。

 また有名なホテルの贅を尽くしたフルコース料理でも、義理でいやいや出席させられた場合や、退屈なスピーチの長い会席では何を食べたか記憶にないことがあります。そうかと思えば、腹を空かせていた時に、たまたま入った町中華で食べたラーメンや餃子が、めちゃくちゃ旨かった経験もあります。  

かように、味覚には多様な面があるので、基本的には「食事は楽しく」するものなのです

 

でも、最近の巷の食事に対するトレンドは、行き過ぎだと思いませんか? TVのチャンネルをひねると、いつもどこかで料理番組をやっています。それだけ現代人は「楽しむ食」への関心が高く、結果として視聴率稼ぎの番組も多いのでしょう。 

日本に限って言えば、各地の名物料理やそれを食べさせる有名店を、芸能人やグルメと称される著名人が訪れて、これでもかこれでもかと、手の込んだ豪華な料理を紹介し放映しています。ひとたびTVやネットで紹介された店は、たちまち有名になって、自称グルメやツアーの外人客が押し寄せ、列をなして賑わっています。更に、その客達の多くが、料理をスマホに撮ってSNSに乗せるから、際限なく情報は広がります。

近頃は、これらの料理番組を見ていて、正直「これで良いのか?」と感じます。 世界では、異常気象による干ばつや洪水、悲惨な戦争、為政者の圧政などのため、今日・明日の食事にもあり付けない人々が「わんさ」といるのが現実です。 小生、運命論者ではないですが、つくづく「日本は平和だな」「日本人に生まれて良かったな」と感じるのと同時に、難民の「ガリガリに痩せて、目ばかり大きな子供たち」の映像を見ると、ひどく世の矛盾を覚えます。

 

ウクライナやガザに無関心でいてはいけないのですが、ここでは複雑な世界情勢と切り離して、今の広い意味での日本の「食」に対する現状をcoolに再考してみたいと思います。 

 

日本人は、世界中から各国の料理を積極的に取り込んで、本場の特色を残しながら、創意・工夫と飽くなき探究心で、日本人の味覚に合うように巧妙にアレンジし、それらを違和感なく受け入れて広めている料理が数多くあります。

更に素晴らしいのは、それらを進歩した冷凍・保存技術と、流通の発達によって、何時でも何処でも食べられることです。特にコンビニやチェーン店の発展で、食の大衆化、インスタント化が急速に進んでいます。 

先日、日本人が好む「食べ物」のベストテンをTVで放映していました。ほぼ小生が予測していた通りでした。寿司、焼き肉、ラーメンがベストスリーで、次いで天丼、かつ丼、親子丼、牛丼、海鮮丼、などの丼物や、餃子、から揚げ、バーガー、カレー、スパゲッティなど庶民的な料理が続き、最近は「おにぎり」がブームだそうです。少々高価ですが、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ステーキ、うな重なども上位に入っていました。 小生は下町育ちのせいか、江戸時代の屋台料理から発展した、庶民の「食べ物」である寿司、蕎麦(そば)、天ぷらが好物です。

 

話題が、がらりと変わりますが、最近「食」に関して気がかりなことがあります。1つは日本の食料自給率が低いことです。

食料自給率は、学問的には結構ややここしいのですが、カロリー・ベース(熱量)で表すのが分かりやすいと思います。 

食料自給率=国産の供給熱量/実際に必要な供給熱量 即ち

日本人の自給率=1日850Kcal/1日2260Kcal=38%

  長期的に減少傾向、原因は主食の米飯⬇でパン,麵⬆です、

38%というのは先進国では最低水準です。 例えば国別では

●カナダ221%、オーストラリア173%、アメリカ115%・・・

都道府県別で見ると稲作県が上位、大都市圏は下位です。

●北海道223%、秋田204%、山形147%、新潟109%・・・

東京0%、大阪1%、神奈川2%、愛知10%…沖縄32%・・・

 

昨年の夏に大学入学以来付き合っていた親友を亡くしました。彼は佐渡ヶ島出身で、何代も続く医院を継いでいました。学生時代に彼の実家に遊びに行ってびっくり仰天しました。医院の後ろに母屋があり、回廊で「離れ」に続き、その裏は背の高い松林が浜辺まで緩やかに連なっていました。左右には砂浜が拡がり、海は遠浅で素晴らしい景勝地でした。「離れ」にはかって武者小路実篤や有吉佐和子などの作家が、すっかり気に入って予定を越えて1~2か月も逗留したそうです。

このような環境で育った彼の性格は、「然もありなん」と思われるもので、些事にこだわらない大らかなものでした。

どうして自給自足の話と佐渡が、結び付くかというと、彼の佐渡自慢は、変わっていて景勝地や魚の旨さや朱鷺(トキ)などの話しではなく、「佐渡ヶ島は自給自足が出来る」が持論でした。だから食料自給の話になると彼の顔が浮かぶのです。   

彼の説明では、佐渡は平地が少ないが意外と面積は広く(857㎢)、沖縄本島(1185㎢)の3/4です。それに反して人口は6~7万人で、沖縄は140万人で1/20です。食料自給率は人口密度が高くなるほど、悪くなるのです。沖縄本島は30%以下だが、佐渡は100%を優に超えているそうです。

 

それにしても日本の自給率が38%というのは大問題です。

土地が狭く、それに比して人口が多ければ当然の結果ですが、今の日本では、少子高齢化による人口減少の方が、国力低下に繋がると深刻に問題視されています。 

世界的に「人口増加=国力増強」という考えが、強権的な為政者にはあるようです。日本では、約260年間の長い太平の江戸時代が、「黒船到来」で鎖国を解かれ、欧米各国の強権に曝されました。明治維新政府は、「清王朝」の様になってはいけないと、富国強兵に努め「産めよ増やせよ」政策で人口増加を図りました。結果的には、これが後々の太平洋戦争にまで繋がったのです。

不自然に人口が増えれば、これを養うための食料が必要になります。このため強権・武力によって現状変更を計り、満州や東南アジア・太平洋諸国に出兵侵略をしたのです。

今、パレスチナ、北アフリカ、中南米など低開発国で人口急増が起きて、不法移民や難民問題が起きています。しかしこれは、工業生産や経済が発展して人口が増えたのとは、ちょっと事情が違うと思います。  

●一番の原因は、先進国での多量の化石燃料消費によってCo2が上昇したことです。これにより地球規模の温暖化が起こり、世界各地で異常気象(干ばつ、洪水、山火事・・・)が発生し、農耕不能となり、食料不足で生きて行けないため、不法移民や難民が多発したのです。

●もう一つの要因は、ITで情報化時代になり、例外を除けばかなりの低開発国でも、簡単に他国の民の生活状況を知ることが出来ます。豊かな生活をしている国が、他にあることが知られています。 それに反して、もともと貧しい上に、干ばつや洪水に見舞われた国では、生きるために必要な最低限の食料すら得られません。更に最悪なのは、そんな環境でも避妊をしないで、育てられない子どもをどんどん産んで、なおさら状況を悪くしています。とんでもない悲劇ですが、命を賭して食べ物のある豊かな国へ向かって移動するのは、自然の成り行きでしょう。 根本は教育の問題でしょうが、宗教なども絡むので解決は難しいと思います。

 

 

どんどん話が移ってしまいますが、次に気になるのは、長い期間、医師として働いて来たので、過食による成人病、特に糖尿病と肥満です。   つづく