子供のころから夏は水遊びが好きだった。
海も自転車で20分もかからない距離だったし、なにより近くの二級河川は徒歩でも5分ほどの距離にあった。当然、夏休みは藪漕ぎをして茨で足に引っかき傷を作りながらも川で魚と戯れる日々を過ごしていた。海と違って、川は水が乾いたときにベタベタしないのがいい。暑い日であっても川の水は冷たくて気持ちよかった。
獲物の中でも鮎は最上のもので、塩焼きでハラワタごと食べるのが好きだった。
自転車でヤスをを担いで川へ行き、水中メガネで半身を水に沈め草むらの川底を行き交う鮎を突く。鮎はそのうちどこかへ行ってしまうのだが、それでも10匹くらい獲れて、昼飯や晩飯の塩焼きに舌鼓を打つ、そんな夏を過ごしていた。勿論、大学生、社会人になるにつれ頻度は減っていたが、田舎住まいのこのパターンは今も変わらない。
鮎は淡水魚の中でもダントツに遊泳力が高く素早しっこい魚で、そんな魚がヤスで突けるのか? と思う人も居るだろう。当初自分自身もそう思っていた。
実は私の母の弟(叔父、現在は他界)は鳥取県の一級河川千代川のごく近くに住んでいて、川漁師より川のことを知っている、ということで特例的に鑑札なしでの鮎取りを認められていた。当然、鮎は取り放題で、3分以上息を止めて漁師も入れないような堰堤の裏側に潜り込んで大型の鮎を何匹もヤスで突いていた。叔父は現地の漁師が一目置くほどの名手だった。
盆に母親の実家に行くたびに叔父さんにその話を聞かされ、地元の河川で試したところ、ヤスでもそこそこ取れることが分かってきた。当時、この川でヤス漁をしていたのは自分だけだったが、教えてやった近所のツレもやるようになり、夏休みは2人で鮎突きに出かけることが多かった。彼は毎年のように川に出ていて、今となっては敵わないほどの腕前だ。
で、なぜ泳ぎ回ってる鮎がヤスで突けるのか? それは鮎の習性に起因する。
鮎の稚魚は、3-5月ごろに掛けて海から川を遡上する。鮎の解禁になる6月ごろにかけては水生昆虫を食べているのだが、魚体が大きくなるにつれ、川底の石に生えるヌルヌルした珪藻などコケばかりを食べるようになる。いいコケが生える石は大きく強い鮎が独占する傾向にあり、そこを縄張りにしてあまり離れようとしない。友釣りはその習性を利用した釣りだ。
人間が川にずかずか入っていけば当然鮎は逃げていくが、縄張り意識の強い鮎はその近くに居て同じところを行ったり来たりする。なので鮎の通り道が把握できれば、そこでヤスを構えて鮎を突ける。
勿論、ずっと同じところでやっていれば鮎は散ってしまうので、10匹以上突けることはそうそうない。それでも縄張りを持った大きめの鮎を選んで突けるのでその日に食べる分には十分すぎる。
とはいえ、もうちょっと効率的に鮎を捕獲する方法はないものか、と考え、今年からこれを使っている。
投網だ。
鮎の捕獲には例えそれが漁業権のない河川であっても定めらた法律、河川ごとに定められた条令を遵守する必要がある。鮎、渓流魚に係る規則は結構厳しく、特に資源価値の高い鮎(要するに高価で取引される高級魚ってこと)は監視、罰則もとりわけ厳しい。投網など網関係は大概規則があるし、上記のヤスについてもゴムなどの発射装置の有無が規定されているケースもあったりと細かい決まりがある。
で、投網なのだが、、、、網を使えば一網打尽に獲れる、というのやはり甘い。数回出て、投網もそこそこ開くようになってはいるが、なかなか群れを的確に打てないし、網に入ってもゴロゴロした石の隙間から逃げられたりと、効率的にはイマイチだ。
そもそも群れの鮎は縄張りからあぶれた個体群でサイズも余り大きくはない。鮎は1年で寿命を終える魚だが、盛夏の時期になると縄張りを持って十分にエサを喰えた個体と、群れ鮎とではかなりの体格差になる。大げさではなく同じ時期なのに全長が倍くらい違ってくる。
慣れてくればそれでも20匹くらいは獲れるのだが、やはり大きいものが見えているのにそれを狙って獲れないのは少々不満もある。
結局素潜りで大きいものをヤスで突く方がいいのかもしれない。
ま、魚とりにそんなに入れ込む必要はないのだが、いい歳をしてこんなことを毎日考えているなんて、いつまで経っても精神年齢は成長してないな、と思う夏の日々だ。