父はとても怖い人であった。
体格は小さいが腕っぷしが強く、
鉄拳制裁の人であった。
亡父の葬式で僕の前腕を見た父の知人が
ぎょっとして「あなたはお父さんと同じ腕をしてるね」といった。
筋肉の付き方が似ているのでしょうね。
驚いたところを見ると、散々殴られたのでありましょう。
葬式の親族の会話でも
「あの人は怖かった」
「あんなに怖い人は居なかった」
「殺されるかと思った」
という話で盛り上がったのでした。
そんな父が生前、なぜか僕だけに話してくれた話があり、
思い出せる範囲内で書いておこうと思う。
「どす黒い月」
父は先の大戦(大東亜戦争・太平洋戦争)で兵隊に徴用された。
戦争中なのだから健康で若い人材が徴用されるのは当たり前である。
新兵には訓練期間がある。
訓練期間中に同期の新兵が教練施設から脱走した。
皆で捜索にあたって、線路沿いの道を捜索していた。
捜索をしていると、
遠くで、汽車の汽笛、ブレーキをかける音が聞こえた。
その時、周りにいる誰もが
何が起きたのをさとり、
皆、その場で凍り付いた。
しばらくすると上官の乗ったトラックがやってきて
「全員引き上げー!!」と号令をかけた。
「フト、振り返ると、
どす黒い月が見えた。
あの月のどす黒さを
儂は一生忘れないだろう」
そのように父は言った。
だいぶ後に、僕は思った。
戦争とは
どす黒いものだ、と
誰だって、戦争なんて嫌だろうと思う。
でも、個々人の意志だけで回避できたりはしないのです。
「個々人の意志だけで戦争が回避できるなんて
言うのはニューエイジャーだけですよ。
偉い人にはそれがわからんのです(※)」
※ガンダムより
どす黒い月を見たくはない。
そう思うだけでは、どす黒い月を
回避できたりしないのです。
そして、その時が来るかもしれないことを
頭の片隅に入れておくと良いのではなかろうか、
そのように僕は思います。
覚悟というのではなく、ほんの頭の片隅に、
「ひょっとしたら、そういうことも
あるかもしれへんねーー(´∀`*)」
ぐらいで良いですけどね。
いじょ (`-ω-)ゞ