初訪。

浜松市最北の天竜区。
区都、二俣の町から、25㎞ほど車で北上すると、
南アルプス南端の山間の集落、春野町がある。

話題になるラー屋としては、
おそらく、静岡で最奥のロケーションであろう。
道は、時に完全に人家が途絶えてしまい、
この先に本当にそんなラー屋があるのか?と、
不思議な気分になる。

店名通りの、小さな町食堂だ。
壁に並ぶメニュー札は、丼物や定食が中心。
肩肘を張らず、取り立てた気負いもなく、
店頭にレモン・ラーの幟が一本翻るのみである。

その、『レモンラーメン』 をデフォで。

すっきりと穏やかな、優しい質感。
スライス・レモンが一枚、シンボリックに載る。

鶏ベースの、極あっさりの醤油スープに、
件(くだん)のレモンは仕込まれる。
酸味のエッジを立たせることなく、
旨味変化のみを享受する為の、繊細なバランス。
刻みタマネギの個性的な風味と清涼感が、
たったひとつだけの主張をしている。

自家製という、中細麺・やや縮れ。
かつて製麺所であったという、この店の麺は、
どこかに 和麺(うどん) の感覚も残した、
本当の意味での “昔麺” だ。

具材は、“煮豚”というべきチャーが2枚。
しっかりとしたガタイで、歯触りの良いメンマ。
それに、海苔が一枚。
本体の方向性に、見事に適った面々である。

直接的で、主張の強い現代ラーとは、
全てが、まさに 「対極」 にあって、
そのギャップには、一寸戸惑いを覚えるほどだ。

しかしながら、
この、奥床しくて繊細なバランス世界を、
すがすがしい南アルプスの風の中で、
心静かに、じっくりと味わうもまた一興であろう。



(レモン・ラーの幟が一本だけ)