2020年5月28日
この1週間で、主人の体調はさらに悪くなりました。
1日のほとんどは布団にいます。
私が家じゅうのクッションや枕、スーツケースまで動員して手作りしたリクライニングの寝床が気に入った!と笑ってくれた主人に、今は笑顔もありません。
背中や脇腹の痛みでまっすぐ寝ることもできず、苦痛に耐える日々。
背中を丸めてじっと座っているか、その姿勢のまま重ねたクッションにもたれかかっているか。
睡眠は長くて1〜2時間。
痛みで目が覚めてオキノームを飲み、私にあたるわけでもなく、静かにひたすら痛みを堪えています。

食欲が低下して、喉に詰まるのが怖いからと、つるんとした食感のそうめん、納豆やお豆腐、ヨーグルトにメロン、バナナといったフルーツ少々。あとは水を口にするだけ。1日に食べる量は1食分にもなりません。

体重はとうとう70kg台半ばまで減りました。

今日は4次治療の抗がん剤・ナブパクリタキセルを予定していました。

主治医の診察に主人は
「腰が張って痛い。この状態が続くのはキツいです」
と弱音を吐きました。

血液検査の結果は前回と変わりなく、抗がん剤ができない状態ではありませんでしたが、体力低下は見た目からも明らかで、今日のナブパクリタキセルは中止に。
来週の状態を見て考えることになりました。

主治医から
「1日の半分以上を寝ている患者さんは、一般的に抗がん剤治療はしません。今までがんを叩く前提で治療をしてきましたが、今の状態を見ると現実的ではない。今後は方向を転換することも考えないといけないと思います」
と説明を受けました。

それでも、
「来週の様子を見て決めていいですか?」
と食い下がる主人。

痛み止め用の麻薬は、また1段階強いものを処方してもらいました。
オキシコドン 5mg×6カプセル→5mg×10カプセル
オキノーム  5mg→10mg

口腔外科で抜糸の処置を受けている間、主人には内緒で、私は主治医と1対1で話をする機会を設けてもらいました。

今まで避けてきた余命の話を聞くためです。

「痛みが治まれば、少しは良くなることは期待できますが、痛みがなくなっても、全身状態が良くなるわけではなく、厳しいことに変わりはないと思います」

いつもの、感情を殺したロボット的な説明ではなく、私に寄りそうような柔らかな口調で、主治医は話し始めました。

「3月に気胸になって何度か癒着術を試みましたが、それもうまくいかなかった。がんが原因の気胸を起こすこと自体が、かなり進行した悪い状態なのです」

そうだったんだ、、、、

「ご主人は前向きに、なんとかここまで頑張っておられたので、その後も抗がん剤を続けました。それが効いてくれれば良かったのですが、ここ最近は腫瘍マーカーも軒並み上がってきています」

主治医は、私に改めてパソコンのデータを見せました。
良い数値が1つもない、、、

「抗がん剤を使ったあと、ガクッと体力が落ちることが多くなったのは、それだけご主人に耐える体力がなくなってきているから。本人の希望なので、来週抗がん剤ができるよう準備はしてはおきますが、現実的には厳しいのではないかと思います」

それは素人の私から見てもそう思えます。

・骨にたくさん転移
 ・胸水溜まってる
 ・体力、食欲低下
この状態を客観的に評価すると、余命は1〜2ヶ月。高齢の患者と違い、ご主人は基礎体力があるので、今日明日なにか起きるということはないと思いますが、1〜2ヶ月のうちにそうなる可能性は高いと思います」

いきなり雷で打たれたようなショック。
目の前が真っ白になりました。

「良い方向に予想が外れて1〜2ヶ月が2〜3ヶ月に延びる可能性はあるかもしれませんが、このさき半年〜1年生きられるかといえば、それは確実に無理があります。ご主人はかなり厳しい状況です」

余命1〜2ヶ月、、、
ウソだ!ウソに決まってる!
でも声が出ませんでした。

「ご本人が余命を知りたいと言えば直接お話しますが、そうでなければ話すことはありません」

今後、主人が辿るであろう経過の説明もありました。

「肺がんに限らず、がんの患者さんの多くは、悪いながらもなんとか会話ができたり、家で過ごせたりする安定した時期があります。ご主人も今はその状態です。ただし、悪くなる時はある日突然やってきます。在宅や入院に限らず、食事やおしゃべりができていたのに、半日後、急に意識がなくなったり、呼吸ができなくなったりすることもあるんです」

意識が朦朧とする中、主人から私を探すLINEが届いてハッと我に返りました。

主治医にお礼を言い、診察室を出て急いで主人の元へ。

「ゴメンゴメン、トイレが混んでで^_^」

顔を見たら泣きそうだったので、人気の無くなった午後の院内を、薄くなった主人の背中を見ながら車いすを押してゆっくり歩きました。

帰りぎわ相談窓口へ。
担当のソーシャルワーカーさんに介護用ベッドのレンタルをお願いすると、夕方には早くも医療にも精通しているという男性のケアプランナーさんから連絡が入り、週末に訪問を受けることになりました。

私が立ち止まっていても、現実は待ってくれない。
少しずつ、もしかしたらもっと早く、主人と別れなければいけない日は近づいているのかもしれません。

泣いてばかりいられない。
残された主人との時間、どのように過ごせばいいのか、私なりに考えたいと思います。