毎年八月には夏季合宿が阿字ヶ浦で2泊3日で行われていた。

 

そして最終日に行われた新人戦に桂先輩と関西本部寮生の大野さん、石田さんが参加した。

桂先輩、石田さんが敗退したのは、東京総本部のある選手だった。

結果を聞きますます稽古にも身が入った。

 

そんなある日の稽古で、ロボットの様にギクシャクした動きの八級の辻という道場生がいた。

 

ローのカットも苦手な様で、カットしようとすると、逆に上げた足がカウンターとなり、ダメージが凄いことになって、みんなにムチャクチャやられていた。

 

私は『凄い不器用な人やな。』と見ていたのだが、実際に相手してみると、骨格の硬さと言うか頑丈さと、馬力が結構あるな。と、思ったが、狙った技はすべて決まった。

 

定時稽古が終わり自主トレをしていると、その道場生はみんなが残っているから、何をして良いか分からずに、キョロキョロしながらなんとなく残っていた。

 

そして帰りが一緒になり、初めて話をした。

話をすると、私よりも半年先に入門していたことが分かり、野球をしていたことなどを話してくれた。

 

そして辻さんに

『先輩、むちゃくちゃ強いですよね。』

『いろいろ教えて下さい。』

と言われた。

そして『僕ってどうですか?』『僕って駄目ですよね?』これが一番多かった。

凄い自分がどうなのか、気になっている様だった。

正直に私は

馬力を凄く感じたことを伝えると、思うようにいかない稽古に自信を無くしていた、辻さんの顔がパッと変わったのが分かった。

 

あの日、もしも私と帰らなかったら辻さんは辞めていたと確信している。

それくらいに落ち込んでいて、私が『馬力に驚きましたよ。』と言った時の、喜び具合が凄かった。

そして私が、辻さんの4歳年下の高校二年生だ知って、

『チョット!嘘でしょ!!高校生やのにこんなに強いんですか!!』と、目玉が飛び出しそうなぐらいに驚いていた。

 

そして先に降りる私に向かって、周りの乗客が驚くぐらいの大きな声で辻さんは

『押忍!今日はありがとうございました!!』と言った。

 

しかし辻さん・・・たぶん私を同じ年か、年上やと思っててんな・・・(笑)

 

 

次回・・・1995年の話59~長野県大会と小さな男の巻~