前回からあっという間に月日が流れドン引きしています。

受験生の皆さんにおかれましては直前期で相当メンタルに来ていることとお察ししますが、あと少しです。

やり残しを少しでも減らし、自信をもって受験会場に向かるよう、最後まで頑張ってくださいね。

 

さて、たまりにたまった添削の解説をするにあたって、予備試験の民事実務で問われる「準備書面作成問題」について、大雑把ですが処理手順を作成しました。

せっかくなので、ブログにも残しておこうかなと思います(決して使い回しじゃないよ。)。

 

本格的な事実認定は司法修習で学ぶことになりますので、ここでは予備試験を解くうえで必要な範囲に内容を絞って記載しています。

解説の便宜上、令和2年の過去問(以下「本件」という)をベースに解説していますので、適宜参照のうえ読んでいただければ幸いです。

 

 

(以下引用)

 

 

【事実認定とは】

論文の問題では設問の前に問題文が事実として記載されており、その事実を所与のものとして(当然にその事実が存在するとして)設問に沿った法律構成やその要件の充足などを検討することになります(事実→評価→要件充足→効果発生というプロセスを追っていく)。平たくいえば、法解釈とあてはめが問われているというわけです。

 

これに対し、事実認定は問題文の事実を所与のものとして(当然にその事実が存在するとして)扱うことはできません。事実認定では、証拠や証言をもとに、自ら事実を抽出していくことが求められています。

 

証拠等から事実を抽出する方法には、民事裁判固有の決まったルールがあり、そのルールに沿って事実を抽出し、あてはめ、要件の充足を主張していかないと、無意味な準備書面(を記載した答案)になりかねません。そのルールを予備試験民事実務に必要な範囲で、【処理手順】として示していきます。この【処理手順】は、のちに皆さんも司法修習で学ぶことになる民事事実認定の手順を予備試験の準備書面問題用に簡略化したものになります。詳しく知りたい方は『事例で考える民事事実認定』をご参照ください。

 

 

【処理手順】

※方針:客観的に認められる事実をもとに、相手の言い分の矛盾点を突く!!

 

①主張の整理および争点の把握

まずは両当事者の主張を訴訟物、請求原因、抗弁と整理したうえで、当事者間で争いのある主要事実を特定します。といっても、予備試験民事実務では「弁護士は次の期日までに○○という事実が認められることを準備書面で主張したい」のように争点を明示してくれているので、深く考える必要はありません。本件でも、「XがAから甲土地を買った事実」について書けと明示してくれています。これが争点になります。

 

②判断枠組みの把握

次に、①の争点を認定(立証)するための判断枠組みを把握します。まずは以下の4点のうちどの類型にあたるかを検討してください。ポイントは、直接証拠があるか、それは類型的信用文書か供述か、文書の場合成立の真正に争いがあるか、です。なお、類型的信用文書とは、経験則上、それに記載された事実が存在しなければ作成されない文書であり、類型的に信用性が高い文書のことをいい、契約書、領収書や預金通帳などがこれにあたります。

 

❶直接証拠である類型的信用文書があり、その成立の真正に争いがない場合

❷直接証拠である類型的信用文書があり、その成立の真正に争いがある場合

❸直接証拠である類型的信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある場合

❹直接証拠がない場合

 

予備試験では❶❷❸のパターンのいずれかが問われています。本件は争点が売買契約締結の事実であり、これを直接証明する文書は存在しないものの、Xの供述があるため、❸に該当するということになります。

 

また、上記❶ないし❹のそれぞれについて、以下のように判断のポイントが異なってきます。

 

❶→特段の事情がない限り記載通りの事実が認められるため、特段の事情の存否が判断の中心

❷→成立の真正につき二段の推定が働くか、働く場合に反証が成功するか(推定が覆るか)が判断の中心

❸→供述証拠の信用性が判断の中心

❹→間接事実の積み重ねによって要証事実(争点)を認定できるかが判断の中心

 

本件は❸の枠組みで構成することになるため、Xの供述の信用性を肯定する(逆に言えば、Bの供述は信用できないと主張する)方向で記載をしていくことになります。

 

③客観的事実の抽出

さて、②で判断枠組みを設定したうえで、事実の抽出に入っていきます。ここでは、やみくもに自分に都合のいい事実だけを拾い上げて主張を構成しても何の説得力もありません。むしろ、客観的に抽出できる事実をもとに主張を構成することで、説得的な準備書面を構成することができるようになります。そのためのポイントは以下の通り。

 

❶当事者双方の供述を見比べて一致する事実

❷成立の真正が認められた類型的信用文書に記載された事実

❸相手方が自認した相手方に不利益な事実

 

実際にはもう少しだけパターンがありますが、予備試験問題との関係ではこの3つで充分です(例えば、裁判所が認定をするときはX側の不利益な事実も検討対象に含めるべきですが、予備試験では準備書面の起案が問われているため、自分に不都合な事実はとりあえず捨象してよいということになります)。本件ではまずXの供述により争点の事実の存在を認めることができることを示したうえで、その信用性を判断するという枠組みの中で❶から❸の事実を拾い上げていきます。そうすると、

 

Xが自宅を建てる目的で土地を探していたこと(a)

甲土地売買につきAとXが代金額の交渉をしていたこと(b)

X名義の口座からA名義の口座に500万円が送金されたこと(預金通帳)(c)

B名義で固定資産税が支払われていたこと(領収証)(d)

Yの経営する料亭は売り上げが落ち込んでおり、Bに資金の余裕がなかったこと(e)

固定資産税の納付状況についてB自身は把握していないこと(f)

 

あたりの事実を抽出することができるかと思います。Bが代金を工面できなかったとか、立替金を支払えなかったとかいう事実は、一見Bに不利にも見えますが、争点(XがAから買った事実)との関係ではむしろ有利に働く(AB売買を基礎づける)ことになるため、注意してください。

 

なお、抽出した事実は、契約前の事情(abe)、契約時の事情(c)、契約後の事情(df)のように、時系列に沿って並べたうえで論述することをおすすめします(別の書き方でも構いません)。

 

④③と両当事者の言い分の整合性を比較

事実を抽出したら、その事実が争点の存否との関係でどのように働くか、どちらの言い分の方が妥当であるかという点について推論過程を示していきます。以下はその一例です。

 

契約前

(a)→自宅を建てる目的があれば、通常自分で土地も買うはずだ

(b)→交渉人が土地を買い受けるのが通常ともいえるが、代理人がする場合もある

(e)→資金に余裕のない者が、特別な理由もないのに土地を買おうと思うことは考えにくい

契約時

(c)→買主本人が通常は代金を本人名義で振り込むはずだが、立替えた可能性は否定できない

契約後

(d)→Bが納付したと考えるのが通常であるが、領収書をX側が提出しているのはおかしい

(f)→Bが土地を買ったのなら納税状況も把握しているのが通常であるのに、知らないのはおかしい

 

このような推論ができたら、XB両者の言い分の妥当性を見ていきます。特にBの供述に矛盾点や不合理があることを示すのがポイントです。自分が正しいというよりも、相手が間違っていると言った方が心証が形成されやすいです。

上記例であれば、(a)はX供述に整合的、(b)(c)は積極消極両論あり得る、(d)(e)(f)はBの供述(売買の動機の部分)と矛盾する、のように判断できるでしょう。なお、(b)(c)については、消極方向も否定はできないけどX供述と矛盾はしないよね、というようにX供述に整合的であると主張する方向で使っていきます。

 

⑤結論

以上から、B供述は客観的事実に矛盾するから信用できず、整合的なX供述が信用できるということになり、信用できるX供述によりXA売買の事実が認められる、と結論付けて終了となります。お疲れさまでした。

 

⑥補足:論述構造について

検討の過程および論述の流れは以上に述べたとおりですが、書き方について若干補足しておきます。

まず、①②はさらっと触れれば良いです。「以下の通り信用できるXの供述から、XがAから甲土地を買った事実が認められる」とかで充分理解を示すことができます。

次に③④の過程ですが、上記のように契約前、契約時、契約後などと状況を時系列的に整理してグループ化したうえで、そのグループごとに③④の過程を示していくのが良いと思います。説明の都合上、③で事実をすべて挙げてから④の推論に入りましたが、この通り書くと読みづらくなります。グルーピングして書くか、あるいは1つずつ書くのがオススメです。刑事実務の犯人性の間接事実の挙げ方に通じるものがある気がします。

文字で書いても分かりにくいかもしれないので、解答例を示すことにします。

 

【解答例】設問4

1 以下の通り信用できるXの供述から、XがAから甲土地を買った事実が認められるというべきである。

2(1) まず、両者の供述から、Xが自宅を建てる目的で土地を探していたこと、およびXがAと甲土地の代金につき交渉していたことが認められる。自宅を建てる目的を持つ者は通常自分のために土地を買おうと考えるはずだし、交渉者が代理人として交渉する可能性も否定はできないものの、購入者自身が代金交渉する場合も多いから、Xの供述に矛盾しない。他方、Bの供述からBが料亭の売上減少に伴い資金難であったことが認められるが、このような状況下で新たに土地を買おうとすることは考えにくく、土地を購入する特別の事情もないから、Bの供述は矛盾する。

(2) 次に、第三者である銀行が作成する類型的に信用できる本件預金通帳から、X名義でAに500万円が振込まれたことが認定でき、立替払いの可能性を排除しないものの、購入者自身が自分の名義で代金を振込むことも多いから、Xの供述に合致する。

(3) さらに、金銭の授受に際して作成される類型的に信用の高い本件領収書からB名義で固定資産税が納付されたことが、Bの供述からBが固定資産税の納付状況を把握していないことが認定できる。確かにB名義で納付がなされていれば、納付者たるBが購入者であるようにも思えるが、本件領収書がX側から証拠請求されており、購入者でないXがこれを所持していたことは不可解であるうえ、購入者であれば土地の納税状況は正確に把握しているのが通常であるのに、Bから合理的な説明がなされておらず、Bの供述は矛盾すると言わざるを得ない。

3 以上から、Bの供述は信用できず、Xの供述が信用できるから、XがAから甲土地を買った事実が認められるというべきである。

  (733字)   

(ちょっと多いですがまあ許容範囲だと思います。。。)

 

 

(引用終わり)

 

 

いかがだったでしょうか。添削をしていて意外と記載内容や方式がバラバラの分野でもあったため、書き方が固まっていない人も多いのではないでしょうか。

この処理手順を参考に民事実務を得意科目にしていきましょう。