育児に関してネット上には多くの情報が飛び交っています。
その真偽は一見本当に見えて分りにくいものも少なくありません。
そこで今回は、いくつか例を挙げ、その内容を検証したいと思います。
〔先日Yahoo!に寄稿した記事を2回に分けて転載したものです(2回目/全2回)〕
カルシウムを摂っても背が伸びるわけではありません
「カルシウムを摂ると背が伸びる」という情報は世の中に溢れています。
しかし、実際にはカルシウム摂取で骨は丈夫になっても、背が伸びるという根拠はありません。
7歳の子ども84人を、カルシウム補充を行うグループと、そうでないグループに分けて行われた中国の研究では、補充したグループの骨密度(骨の強さ)は増えましたが、身長は差がみられませんでした(5)。
アメリカ国立衛生研究所のカルシウムに関する資料にも、カルシウムの効果として「骨の長さを伸ばす効果」は記載されていません。
その他にも世の中には、「背が伸びてほしい」と願う親子をターゲットに、「身長を伸ばす効果がある」と宣伝した食べ物やサプリメントは数多くありますが、特に医学的な効果が証明されているわけではありません。
現状を憂えた日本小児内分泌学会は次のような声明を出しています(6) 。
「栄養不足の状態でなければ、カルシウムや鉄、ビタミンDを含んだサプリメントを摂取しても成長が促されることはなく、成長ホルモンの分泌を促す物質や成長ホルモンを含むスプレーを鼻や口に噴霧したりしても身長が伸びることはない」。
ちなみに、「牛乳はリンが多く含まれており、飲むことでかえってカルシウム不足になる」とか「牛乳は実は骨粗鬆症の原因になる」というネット情報もありますが、これも誤った情報です。
たとえば、ある研究では20歳以上の女性3251名の公的保健データをもとに、小児期の牛乳摂取量が少ない女性は骨密度が低く、骨折のリスクが高かったことを報告しています(7)。
ほかにも多くの研究で「牛乳はカルシウムの摂取に繋がり、骨粗鬆症の予防に繋がる」ことが示されています。
夜尿は「家族との関係が悪い」ことが原因ではありません
「夜尿があるのは家族との関係が悪いから」という情報も見たことがあります。
夜尿は様々な要因が関わるとされています。
夜に作られる尿量が多い(夜間多尿)、排尿に関係する筋肉の活動が過剰(排尿筋の過活動)などが指摘されていますが、発達の遅れや遺伝が関係する可能性も指摘されています(8)。
また、実は腎臓の病気や内分泌の病気(尿崩症や糖尿病)等が隠れている可能性もあります。
決して家族関係に原因を集約できる問題ではありません。
他にも「夜尿はプレッシャーをかけるから悪くなる」という情報も見かけます。
たしかに夜尿は尿意を感じられないのが原因で、本人の過失ではありません。
わざとではないので罰を与えても改善しません。
いっぽう、夜尿は医療機関での治療で治癒を大幅に早められるケースもあり、夜尿で本人や家族が悩んでいる場合は医療機関での積極的な治療が勧められています(8)。
「夜尿は放っておけばよい」というものではありません。
ちなみに、夜泣きについても同様に「原因は母親の愛情不足」などの情報が見られますが、赤ちゃんは理由なく泣くことがあります。
夜泣きについては以前以下の記事で解説していますのでよろしければご覧ください。
「赤ちゃんが泣き止まない…」追い詰められる前に 小児科医が答える夜泣き対策
さいごに
今回、ネットには「エイプリルフールも真っ青」になるような「一見本当にみえる」不正確な情報がたくさんあることを思い出し、まとめてみました。
育児は様々な情報が乱れ飛ぶ分野です。SNS等で情報を見かけた場合に、少しでも正確な情報を見分けるには、一呼吸置いて次の点をチェックしてみてください。
万能ではありませんが、多少は役に立つかも知れません。
1.発信者は誰か
厚生労働省など公的機関の情報を優先する
2.何を根拠に言っているか
論文やガイドラインなどの文献を根拠にした情報を選ぶ
3.多くの医療者が同意する内容か
少数〔医療者含む]だけが勧める内容には飛びつかず、慎重に。
医療者の発信だからといって、それが必ず正しいとは限りません。
だからこそ私も、医療者の一人として、少しでも正確な情報が増えるよう真摯に発信を続けていきたいと思います。
<参考文献>
(5) Lee W,et al: British journal of Nutrition,74(1),125-139,1995.
(6)日本小児内分泌学会:「身長を伸ばす効果がある」と宣伝されているサプリメント等に関する学会の見解
(7) Heidi JK, et al: The American Journal of Clinical Nutrition,77(1), 2003,257–265.
(8)日本夜尿症学会.夜尿症診療ガイドライン2016,診断と治療社