救急外来で当直していると、時々、こんな相談を受けます。
「1歳の娘ですが、未明にぐずったので抱っこしたところ、熱感があり測ったら39.5度だったのであわてて連れてきました。急に熱が上がったので、大丈夫か心配になって連れてきました」
高熱が出ると、保護者の皆さんはあわててしまいますよね。
ちなみに、発熱はお子さんの受診理由としても一番多いです。
ある推定では小児科医の診る子どもの症状の30%は発熱だという報告もあります(1)。
ただ、発熱は珍しくない症状ですが、意外に誤解されている点も少なくありません。
救急外来で、保護者に発熱で不安な理由を聞いたアンケート調査があります(2)。
多くの保護者の皆さんが、
「脱水になるんじゃないか」
「脳に障害が出るのでは?」
「けいれんするのでは?」
といった不安を感じていらっしゃるんですね。
たしかに発熱すると脱水になりやすいので、こまめに水分摂取が必要です。
でも、水分が摂れていてぐったりなどなければ、あわてなくて大丈夫です。
「脳の障害」についてはどうでしょうか。
結論から言うと、発熱だけが原因で脳にダメージを与えることはありません。
それは、発熱は病原体から体を守る免疫のしくみだからです。
つまり、体の中のしくみとして熱を上げているんですね。
熱中症などで体温が上がった場合には話は別です。
この場合(高体温といいます)は、外の環境のせいで無理矢理体温が上がっています。
放っておくと熱中症になり脳に障害を起こすこともあるため、しっかり下げる必要があります。
外の環境で体温が無理に上がる熱中症と、
風邪などに対する体の内側の防御反応としての発熱は
全く異なるのですね。
でも両者がごっちゃになってしまい、
「風邪の熱でも脳に障害が」と思ってしまうのかもしれませんね。
いずれにしても、お子さんの熱が出ると保護者の皆さんは不安だと思います。
病院受診の目安があると安心かと思いますので、こちらに載せます。
(教えて!ドクター 子どもの病気とおうちケア より抜粋)
基本的には熱があっても、活気もあって水分も摂れているようなら、
夜にあわてて病院に駆け込む心配はないのですね。
もしおうちで様子をみる場合ですが、解熱剤の使い方もよく聞かれます。
ときどき
「解熱剤を使っても39度から下がらないんですが、効いていないのでしょうか」
と聞かれることがあります。
そんなことはありません。
というのも、解熱剤の使用目的は解熱そのものではないからです。
解熱剤は、発熱による不快な症状を軽減するため、
【水分が摂れない時】とか、【ぐずって寝付けない時】に使ってあげてください。
水分が摂れてて機嫌もそれほど悪くなければ、
熱を下げるためだけに使わなくても大丈夫です。
「眠っているけど熱がある場合、座薬を入れた方がいいでしょうか」
と聞かれることもあります。
この質問をアメリカ小児科学会の小児科医151名に行ったところ、
131名(88%)が「起こす必要はない」と回答しています(3)。
海外でも多くの医師が、解熱剤の目的を
「解熱そのものではない」
と考えていることが分かります。
なお、解熱剤を使っても病気の治りは早まりませんが、遅くなるわけでもないので、
繰り返しになりますが、
高熱のせいでお子さんの機嫌が悪かったり水分が十分摂れないようなら、
使っていただいて構いません。
なお、解熱剤を早めに使っても、
それでけいれんを予防することはできませんのでご注意を(4)。
今日は主に発熱の受診の目安と解熱剤の使い方についてお話ししました。
参考文献
(1)Pediatrics.2001;107:1241-46.
(2)松井克之.小児科臨床.66(6),1151-1157,2013
(3)Pediatrics.1992;90:851-854
(4)Eur J Paediatr Neurol.2013;17:585-8.