私は大学の学生寮に住んでいる。この寮では月に一度開かれる会議があるのだが、そこで寮長から耳寄りの情報があった。それはコロナ禍で中止されてきた女子寮との合同キャンプを今年から復活させようというものだった。しかも流石うちの寮長、ただ行事を復活させるわけではない。合同キャンプに向けて女子寮と懇親会を開こうというところまで話が進んでいると続ける。その情報を聞いた寮生の中には、あからさまに喜ぶ者、陰で噛み締めるようにガッツポーズをする人、「女子なんか興味ねーし」と、まだ思春期が終わっていない痛いやつなどみんな多種多様な喜び方を見せた。

 私個人としては、あいにく、懇親会の日にずらせない用事があったため、参加できなかったのだが、寮の全体ラインを見てみると他の寮生達が楽しそうに女子と写真を撮っているのがわかった。内心、お前らばかり良い思いしやがってとは思ったが、あくまでも合同キャンプがメインと自分に言い聞かせた。

 キャンプ一ヶ月前、行事の運営委員達は本格的な企画立てや、しおりの作成などで忙しくなって来て、寮内も合同キャンプが楽しみという雰囲気で溢れていた。そのしおりの中で自己紹介欄があるのだが、イケメンなやつの自己紹介欄に小細工(みんなに一言の欄に、毒とカッターが好きですや、2回だけちかんしたことがありますなど)を仕掛け、少しでも自分を優位にしようという見るに耐えない寮生が現れたり、必死に写りの良い写真を探す、中の下くらいの寮生など、一ヶ月前にして「もうキャンプは始まっている」という言葉がふさわしい状態だった。

 そしてキャンプ当日、私にとってはメインであるが、なんと、懇親会で8割くらい関係性ができあがっていたことに気づいた。なんかもうみんな普通に自己紹介とか無しで前から知っている人みたいに話していて、懇親会に行った人とそうでは無い人で、そんじゃそこらじゃ崩れない大きな壁ができていた。特にほとんどが連絡先を交換していたので、新参者が交換しようとは言いにくい状況ができており、何も関係ができることなく私のキャンプが終わろうとしていた。しかし、またしてもうちの仕事ができる寮長が、「男女2人一組になって肝試しをしよう」と素晴らしい提案をしてくれた。ただ、男子の方が女子よりも人数が多かったため、男子の中でじゃんけんして選ばれた者だけが女子と2人で肝試しができることになった。そして私は負けた。しかも負けた人はお化け役に回ることとなり、せめていっぱい驚かせてやろうと思ったが、7割くらいの人が私に気づくことなく本当の幽霊くらいの割合で素通りして行った。ちなみに、懇親会に行けずに、合同キャンプで肝試しに参加できなかった寮生は、私と、細い理系のキャンタマ二胡のモノマネが得意な荒川くんだけだった。