今回は皇后陛下美智子様の御歌についてご紹介いたします。
皇后陛下は歌人としても優れていらっしゃいます。このような事を書きますと、「右の人だから、皇后陛下誉めているんでしょう?」という声も聞こえそうです。
しかし、皇后陛下の御歌は、「秀歌○○選」という企画があれば選ばれることが多く(例/永田和宏「現代秀歌」等)、プロの歌人の方からも評価されています。
まずは、皇后陛下の歌をお読み下さい。
ふと覚(さ)めて土の香(か)恋ふる春近き一夜(ひとよ)霜葉(しもば)の散るを聞きつつ
耕転機若きが踏みて草原の土はルピナスの花をまぜゆく
白珠(しらたま)はくさぐさの色秘むる中さやにしたもつ海原(うなばら)のいろ
遊びつかれ帰り来(こ)し子のうなゐ髪(がみ)荻の小花のそこここに散る
この年も露けく咲かむ紅花(べにばな)と掌(てのひら)に白き種を見てをり
夏木立(こだち)しげれる道の下闇(したやみ)に斑紋(はんもん)白き蝶ひとつ舞ふ
風ふけば幼(をさな)き吾子(わこ)の玉ゆらに明るくへだつ桜ふぶきは
雪明(あか)る夕ぐれの部屋ものみなの優しき影を持ちて静もる
み堀辺(ほりべ)の舗装の道の明るきに花散り敷きて若き衛士(ゑじ)立つ
樺の木の色香をこめて手に漉きし吉野の紙を手にとりて愛(め)づ
婚約のととのひし子が晴れやかに梅林にそふ坂登り来る
部屋ぬちに夕べの光および来ぬ花びらのごと吾子(わこ)は眠りて
(以上 皇后陛下美智子様 歌集「瀬音」より)
元々教養・才能が御有りになった上に、皇室の方への短歌の指導には当世一流の方が担当されますので、その才能が開花されたのだろうと思います。
お立場から、題材や表現は厳しく限定されます。特に政治的表現は禁じられています。しかし、皇后陛下は生き生きとのびやかに詠まれていますね。
お子様のことや、自然のこと、紙すきのこと・・・詠まれていますが、いずれからも気品ある色香のようなものを感じ取ることができます。
以上の歌は、私が「瀬音」から好きな歌を転記したものです。その中でも特に好きな歌は、
婚約のととのひし子が晴れやかに梅林にそふ坂登り来る
です。皇太子殿下が、晴れやかな笑顔で、美智子様にむかって登り歩いていらっしゃる姿がいきいきと伝わってきます。『婚約のととのふ』まで、又はそのあとの御苦労に想いをはせますと、更にこの情景が印象的に感じられます。梅林という情景が、婚約時の初々しい心境に似つかわしいですね。
ご興味をもたれた方には是非、皇后陛下の歌集を手にとって頂ければ幸いです。
また、あまり話題にはなりませんが、皇太子妃雅子妃殿下の短歌も素晴らしいです。あらためてご紹介申し上げたいと思います。
(業平)