男は探し続けていた。
自分に足りない物を。
男は全てを持っている、と周りの全ての人間は思っていた。
金、名声、権力、女、この世界に彼が味わっていないものは無いとさえ言われていた。
それでも彼は感じていた。自分には足らないものがあると。
それは例えるなら10000ピースのパズルの最後の1ピースが無いような状態だった。
1ピースだけ無いものだから、かえってそこだけが目立ってしまい、そこばかりが気になってしまう。
彼の目にはもはやそこしか映らなかった。
そこが埋まれば完璧なのに、そこが埋まれば完成するのに。
だけど、その最後の1ピースがどこにあるのか分からなかった。どのようなものなのかすら見当がつかなかった。
それでも彼は探し続けた。それが見つからない限り自分は本当の意味で幸せにはなれないと思ったから。
しかし、どれだけ長い時間を掛けようとも、どれだけ長い距離を歩こうとも、それを見つけることはできなかった。
ついに彼は疲れ果て歩くのを止めた。
自分の人生は完全なものにはならないと思うと自然と涙が出てきたが、彼はそれを受け入れることにした。
その時、彼の中のパズルが音を立てて崩れた。
そして彼は気づいたのだった。
そのパズルが10000ピース必要だと思ったのは彼の勝手な想像でしかなかったことを。
彼の目の前で、9999ピースのうち、9990ピースは消えて、9ピースだけが残った。
その9つのピースによって完璧なパズルが完成した。