戦争は時代によって変わってきた。
人類がどれだけ科学や技術を発展させたとしても、争いは無くなることはなかった。
むしろ、より戦いは深く、複雑になっていった。
昔は人間が剣や槍を持って戦っていたのが、手に持つ物が銃になり、さらに戦車や戦闘機など、より高火力の物に乗るようなった。
そして更なる技術の進歩は戦いの形を変えていく。
一発当たりの火力は下がるが、より自由に動くことができる人型兵器、いわゆるロボットの登場である。
人が直接銃を持っていた時代から、銃を持つロボットに人が乗る時代になった。
兵器が人の形になったことで、戦車や戦闘機よりもさらにパイロットの腕が問われるようになる。
昔の戦争に英雄と呼ばれた人間がいたように、最新の戦争でもエースパイロットと呼ばれる者たちがいる。

とある会議室。会議室と言っても、粗末な石造りの壁に囲まれた簡素な部屋だ。
現在戦争中の一方の勢力は今ある問題に悩まされていた。
敵勢力のたった一人のエースパイロットである。
本当に同じ人間が操縦しているのかと思わせるほどのテクニックで、一機の機体でこちら側の戦力がこれまでどれだけ堕とされたきたか、考えるだけで会議出席者の面々は頭が重くなった。
「で?どうする?」
出席者の中の一人が沈黙を破るように声を挙げた。彼は10代の頃から軍に所属しているベテランである。だが、そんな彼でも敵のエース、通称「死神」は今までのどんな経験や知識も役に立つことはなかった。
「どうするもこうするも、現状死神を倒すことは難しいだろうな。あの操縦テクニック、戦闘センス、敵ながら見事としか言えん」
「ああ、俺の部隊の若い奴の中にも隠れファンがいるくらいだよ」
通常、単体火力が戦局をひっくり返すということはあまりない。余程巨大な兵器ならいざ知らず、相手はたかが一個人である。
だが実際、その一個人に軍全体が翻弄されていた。
「やはり、死神の乗る機体。あれはやつ専用の特別製ですよ。あれを研究して、こちらも新兵器を開発すべきです」
「しかし、それにどれだけの予算と時間が掛かるか分からん。新兵器が完成した頃には我々は負けていたでは話にならん」
「なら、やはりこちらもエースパイロットをどこかから見つけてくるか」
「どこからだよ?」
「あれは訓練でどうにかなるものなのか?もはや操縦しているというレベルではないぞ。まるで自分の体のように機体を操っている」
天才のエースパイロット。その前ではいくら経験豊かな彼らであろうと、凡才という烙印を自分の額に押し付けられていることを自覚せざるを得なかった。
「ではやはり・・・」
結果として出た結論は、死神の戦闘映像等、なるべく多くの情報を集め、そこから死神の戦闘パターンを解析し、適切な戦略を練るというありきたりなものになった。
もはや、誰も死神を倒そうなどとは考えていなかった。いかに戦場でやつを足止めできるか、それが議論の中心だった。

後日、驚くべきニュースが戦場を渡った。
あの死神がいなくなっていたのだ。
ありえない話だった。現在の戦況、前回死神が現れた場所、数々の情報から、今回の戦闘にやつが参加していない理由がなかった。
「なぜだ・・・?」
本来死神がいないことは、彼と相対する側にとって喜ばしいことなのだが、疑問の方が勝ってしまっていた。

「やつが戦場から姿を消した理由が分かりました」
後日再び開かれた作戦会議で、情報戦担当の士官が報告書を読み上げた。
やつは、戦場の死神は、自分の上官の妻と不倫関係になったということで軍を除籍処分になっていた、との報告だった。
「えぇ・・・」
誰もが、どう反応していいのか分からず固まっていた。
戦争は時代によって変わってきた。
どんな戦果を上げてきた英雄でも、スキャンダル一つで立場を失う時代の戦争は、ますます混迷を極めていく。