掃除はその場所だけでなく、心も綺麗にするとは誰の言葉だったろうか。
箒とちり取りを持ち、彼女は歩く。
掃除が彼女の仕事ではあるが、普通の掃除と少し違うのは、彼女の仕事場はこの世界中の全ての場所ということだろうか。
「あった」
ようやく今回の仕事場に到着した。
今回はまたいつにも増して鬱蒼とした森の奥深くだ。
「なんで毎回こうも、自然豊かすぎる場所なのかしら」
文句を言ってもどうしようもないことは分かっているが言わずにはいられなかった。
視線の先に落ちているゴミを掃除し、回収するために彼女は慣れた手つきで掃除道具を準備する。
ただ、そのゴミと彼女が呼んでいる物は、ゴミという名とは対極に位置するかのように、微かだが美しい光を放っていた。
「こんな森の中とか山の上とか、そんなとこばっかに落ちないで、たまには街の中とかに落ちてほしいわね。片道楽だし」
彼女が掃除するのはゴミはゴミでも、スターダスト、屑は屑でも星屑であった。
流れ星。夜空を光の尾を引きながら流れるアレ。
流れ終わり、地上に落ちた星屑を掃除するのが彼女の仕事。
星はこの世界で生まれた物質ではない。だから地上に落ちても自然に還ることができないのでちゃんと回収する必要があるわけだ。
箒で散らばった星の欠片を集め、専用の容器に入れる。やることは普通の掃除と大して変わらない。
難点があるとすれば、彼女が先程言っていたように、どういうわけか流れ星が落ちるのはほぼ人が住む街などから遠く離れた場所であるため行き来がめんどうだということ。
現場到着から数十分、全ての星屑を回収し終えた彼女はさっさと帰路につく。
「今回は結構集まったわね」
それだけ流れた星の量が多かったわけだが、彼女は乾いた笑みを浮かべる。
「これだけ勘違いした人が多いと思うとちょっと笑えるわ」
彼女は知っている。流れ星とは、どこかの誰かの願いを『叶え終わった』星であるということを。
星は自分の力を使い、一人もしくは複数の人間の願いを叶え、その役目を終えると落ちるのだが、それがどこかで変化した話が、流れ星に願い事を言うと叶うというものだ。
だが実際は、流れ星それ自体には何の力も残っていない。
容器からは回収した星屑の光が漏れていたが、どれだけ綺麗な光を放とうが、彼女にとっては掃除するゴミに過ぎない。
ちなみに、回収された星屑はリサイクルされ、また夜空に浮かぶ星になる。
「ゴミに願い事言うつもりはさらさらないけど、次に生まれた時は私の願い事聞いてよね」
容器をポンポンと叩きながら、次の掃除場所に彼女は向かうのだった。