世の中から問題が消えることなど一瞬としてない。本当に深刻な問題ほど、人々の目には触れないほど、モグラのように地下深くに沈むものだ。
だが、今世間の人々の話題に上がる問題も決して無視はできない。
その一つが人手不足である。
「これが作戦だ」
薄暗い部屋の中。ランプの灯りだけがそこにいる男たちの輪郭を微かに浮かび上がらせる。
「これで明日の今頃は大宴会だ」
彼らが木製の机の上に広げられた地図を見ながら話しているのは、とある強盗計画。
大手武器商人の運ぶ、大量の武器、剣や銃、魔法の杖などの様々な魔導具。
「運搬手段はゴーレム馬に引かせた大型馬車。ライゴルム商会はあえて目立つ街道を通らせている」
「見通しがいいし、いざという時すぐに逃げられるようにですかね?」
「そうだろうな。場合によっては、近くを通りかかった冒険者や傭兵が助けに入ることも考えられるからな」
「だけど、そのあたりも対策済みと」
「おうよ。ここで奇襲を掛ける」
そう言うと、盗賊団のリーダー格は地図のある地点に丸印を付ける。
「ここは、この街道でも右は山、左は緩いが崖になってて道が細くなってる。しかも、一番近くの街からもそれなりに距離があるから人通りも少ない」
「ここでなら挟み撃ちを容易っすね」
「ああ、しかも事前に得た情報じゃ、今回の荷馬車には一人しか従者がいないそうだ。ライゴルム商会と言えど、人手不足の波は来てるらしい」
昨今の戦争や、疫病などによる世界情勢の変化から、経済は不安定な状態が続いており、それはどんな大きな企業と言えど避けられるものではなかった。
「堅気の仕事が不景気になるほど、俺たちみたいな業界は人手が増える。世の中ってのはよくできてるよな」
笑いが部屋の中に響く。
「よし、予定通りに明日決行だ。全部奪うことができれば、最低でも3000万は下らねえはずだ」
「よーし!やるぞお!!」
混乱した世の中。その混沌を餌に彼らのような悪党ははびこっていく。夜の闇は日ごとにその深さを増していくようであった。

次の日。3体のゴーレム馬が引く荷馬車が道の真ん中で停止していた。
そして、その馬車の周りでは大勢の男たちが倒れ伏している。
それら気を失っている体を見下ろしながら一人の青年がボソッと呟いた。
「一人しかいねーんだから、弱いわけないだろうが」
青年は剣を納めると、再び荷馬車を動かし街へと向かって行った。