お菓子の国。あらゆる物がお菓子で作られている夢の国。
ビスケットの道路に、キャンディの街灯が立ち並び、チョコレートやケーキで造られた家が建っている。
女王が統治しているこの国では、日々いかに美味しいお菓子を作れるかに人々の力は注がれている。
和菓子や洋菓子、あらゆるお菓子の知識や技術を学べる国立大学に入学し、パティシエとして働くことは全国民の夢と言っても過言ではない。
実際に、ダイヤクラスと呼ばれる一握りのパティシエは国の英雄と同義である。
しかし、それほどまでに人々がお菓子のことに力を入れている背景にあるのは、決して情熱や夢だけではない。
むしろ、そこにあるのは恐怖の方が大きいのかもしれない。
二日後に来るのはハロウィン。
お菓子の国の人々が、一年の中で最も恐れる日。
双子の悪魔、ヘンゼルとグレーテルの来襲の日。
双子はこの日だけお菓子の国に来て、あらゆる物を喰いつくす。家、道路、街路樹から看板、お菓子で出来ている全ての物を。
それは食べるというよりも、ほとんど破壊に近い。お菓子の国の人々には手を出さないが、それでももはや災害であることに変わりはない。
だからこの国のパティシエたちはこの日のために、可能な限り被害を出さないためのお菓子を作ることに精を出す。
だが悲しいかな、ヘンゼルとグレーテル対策のために、あえてお菓子を不味くするとか、毒を仕込んでおくとか、そんなことは彼らは絶対にできない。
お菓子を作るのであれば、どんな目的であれ、最上の美味しさで。それが彼らの逃れることのできない宿命なのである。
そして今年もおそらく街は喰われるだろう。
できることと言えば、被害を小さくする、すなわち少ない量で満足して帰ってもらえることを祈ることだ。
だが、あの双子の力はいまだに測り知れない。
お菓子を美味くすれば満足するのか?より喰われ、被害が広がるだけではないのか?
お菓子のクオリティと双子のもたらす被害、この二つのことに挟まれ、お菓子の国は常に悩まされている。