市民総合体育館。そこで行われているのは、高校生を対象にした、剣術国体予選決勝。
新しくできたばかりの競技だが、瞬く間に競技人口は増えていった。
一対一で競う個人戦。剣道や柔道のように先鋒、次鋒と順番に戦う基本団体戦。二対二、三対三と同時に戦う複数団体戦と競技の形も様々だ。
特徴は選手が持っているプラスチック製の細長い棒、これが剣になる。
そして、頭に装着された軽量VRゴーグル。これによりVR空間内では、選手はそれぞれ騎士剣や刀を装備した戦士となる。
観客もそのVR空間での戦いを見て楽しむことができる。
細かいルールは省略するが、剣道とはまた違った、武道というよりも格闘技に近い感じかもしれない。
とにかく、これから行われるのは、ここまで勝ち進んできた二人の高校生による決勝戦。
二人とも17歳で別々の高校だったが、大方の予想ではこの二人が決勝で当たると思われていた。
「ねえ、どっちが勝つと思う?幼馴染から見たら」
観客席の中に二人の少女がいた。一人はいわゆるミーハーな感じで、今この競技が流行っているから友人に付き添ってきた。
その付き添った友人に尋ねている、どちらが勝つのかと。
問われたもう一人の少女はただ競技場を見つめていた。
「どっちかな。どっちでもありえると思うけど」
「え~、よく知ってるんでしょ二人のこと。それでも分かんないの?」
「まあ、これは最強対最強の戦いだから」
いきなり出てきた言葉の意味を掴むことができず、思わず何それと片方の少女は言った。
「いや、最強が二人ってどゆこと?」
その時、会場に決勝戦で戦う二人の選手が入ってきた。観客の熱気が一段上へと上がる。
二人の選手の一方を見つめながら幼馴染の少女は言った。
「あいつは、勝つことを栄養にしてる生物って感じ。勝つためならどこまでも努力できるし、負けたらめちゃくちゃ悔しがる。あいつの中に敗北という言葉は存在すら許されないの。だから最強」
そして次にもう一方の少年に目を向ける。
「あいつは、この競技が楽しくて仕方ないの。だから練習も試合も、全てを楽しむことができる。勝ちも負けもあいつにとっては同じ価値なの」
「それって、負けても悔しくないってこと?」
「うーん、勝ったら嬉しいだろうし、負けたら悔しいと思うよ。でも、負けた悔しさすらあいつは楽しむことができる。だから最強なの」
「ふーん、分かるような分からないような。で、実際どっちが強いの?」
「戦績的には、7対3ってとこかな。やっぱり勝ちにこだわってる分数字的にはそうなるよね。でもお互いにライバルであることは間違いない」
そこまで言ったところで、会場にブザーの音が鳴り響いた。試合開始の合図。そしてそれと同時に二人の最初の一撃が激突した。