その日、テレビからネットに至るまで様々なメディアが取り上げたのは、ある一つの話題だった。
AI搭載型人型ロボットの発表。とある科学者が開発した物だが、これ自体は特に珍しい話では無い。これまでも新作ロボットの発表はいくらでもあった。しかし今回のそれは格が違ったのだ。
お披露目の発表会に来た、メディア関係者やロボット業界関係者たちがこぞってぶつける質問に対して、このロボットは完璧な受け答えをしたのだ。
同じ内容の質問でも。それをしてきたのが、若い女性か、中年の男性かで答え方に違いが出るし、ロボットの答えの中にある矛盾点の中のようなものを鋭く指摘しても、それを受けて新たに答えを出すなど、議論の応酬にもよどみがない。
本当に生身の人間と会話しているかのようだと、質問をした者は皆錯覚するほどだった。
最後には歌まで歌って会場を盛り上げた。
「お疲れさん」
発表会終了後、自分の研究室に戻ってきた科学者は、ロボットに対して労いの言葉を掛ける。
「どうだ?完璧だったろ」
「ああ、程よく『ロボットっぽさ』を出すことができていた」
「練習の甲斐があったな」
その科学者、ロイ博士はまるで友人と話すかのようにロボットと会話をしている。
今回のことで彼の名は一気に世界中に知れ渡るだろう。
だが、彼は今日までほぼ無名と言ってもいい科学者だった。
それは彼が、ロボット研究専門の科学者ではなかったからだ。
彼が研究していたのは、ロボット工学ともう一つ、『魂』の研究だった。
「こいつに憑りついて正解だったろ?」
「ああ、下手に人間に憑りつくよりずっといいや」
このロボットを動かしているのは実はAIではなく、霊体だった。
ロイ博士が魂の研究の実験中に出会った、一つの霊体、彼は自身のことをベルチアと名乗った。
霊体、いわゆる幽霊は、古来より人間界に干渉し、人間たちがいう所のポルターガイスト現象やラップ現象を起こしてきた。
そして、人間に憑りつくことが出来るようになると、達人級の幽霊として認められるのだという。
ベルチアは幽霊として高い技術を持っていたが、人間に憑りつくことには否定的だった。
「考えが古いんだよな。伝統だか何だかしらねーけどよ。人間に憑りつくことができてもいいことなんてあんまりねーんだこれが。相手の思考がこっちに流れ込んでくるしよ、憑依の相性が良くても、性格が合わないなんて当たり前にあるしな」
どうやら幽霊には幽霊なりの苦労があるようだ。
「それだったら、ロボットの方に憑りつくほうがよっぽとマシだぜ。デザインもカッケーし、何より憑依対象の意識が無いから楽ちんだしよ」
ベルチアから、最近の幽霊界の若者はあまり人間に干渉せず、気ままに自分の好きなように暮らしたいというのがトレンドらしいと聞き、ロイ博士はどこも世相というのはあるのだなと感じた。
「まあ、これからもよろしく頼むよ」
「『AI』搭載ロボットっていう、詐欺の片棒担ぐことにか?」
「人聞きが悪いな。新たな可能性への挑戦と言ってくれ。もしこれが上手く行けば、ロボットが人間と幽霊の架け橋になるかもしれんのだ」
科学と霊魂という、ある意味対極の存在の間に人とロボットが立つというこの不思議な図式が世界にどのような影響を与えるのか。少なくとも、今この研究室の中では上手くいっていると感じることはできた。