このお城に人間は私一人。
いや、正しくは二人。この歯車で一杯のからくりの城。その城主がどこかにいる。
私はその城主に会ったことは無い。私の仕事はもっぱら城の掃除と、時々外から届く荷物を運ぶこと。
城主宛ての荷物だけど、本人の所まで運ぶのではなく、所定の位置まで運べば後はからくりで自動的に運ばれていく。
私の密かな楽しみは、城の中を掃除しながら、どこかに城主がいないか探すこと。
今まで何度か、人影のようなものを見た気がするが全てハズレに終わっている。
おそらくこの城は私の知らない仕掛けが山ほどあるのだ。
この城のどこかにいるはずの影を私はずっと追いかけている。
なぜそんなことをしているのかは分からないが、もし会うことができたなら、最初に何て言ってやろうか、それを考えるだけでも楽しんでいる自分がいるのは確かだった。