かつて、世界には魔法使いがいたと言う。魔法という人々の理解の範疇を超えた力を使い、時に人を助け、時に人の脅威となり、しかし科学の発展で、いつしかその存在は絵本や伝説の中だけになってしまった。
しかし、科学のさらなる発展は再び魔法使いを世に出すこととなる。

甲高い音が長くフィールドに響く。
試合終了を示すホイッスルの音。
その日行われたサッカーの試合は、8-0というサッカーの試合としては珍しい大差で決着がついた。
歓声が沸く観客席の近くには、チーム関係者が座るベンチがある。
もちろん関係者たちも喜び合っているが、その中で一人だけ、表情を一つも変えていない男がいた。
彼はこのチームの監督という肩書きだが、正確には違う。
オーナー、と言うより、このチームの「製作者」だ。
今行われていたサッカーの試合、出場選手は皆、スポーツロボットだ。
ただし、走る速度、体の強度、ジャンプ力など性能は全て同じだ。
ではどこで選手の個性を出すのかと言えば、AIである。
それぞれの選手のAIにどのような学習をさせるかで、特性が変わってくる。
彼は、選手一人一人のAIにそれぞれ教育を施し、強力なチームと作った。
AIに対する教育は単に命令と作業を繰り返すだけではない。実に緻密な調整が必要となる。それこそ本物の人間の教育と変わらないほどに。そのAIに入力し、理想の動きを出力する教育のことを「呪文」といつからか呼ばれていた。
彼は独自の、他の誰もまねできない特殊な呪文を使えるとされ、「ウィザード」の異名を誰かが付けた。
彼も興味があるのは、AIの教育のみであり、サッカー自体はその実験場でしかない。
最初は、1対1の格闘技から始まり、5人制のバスケットボール、9人制の野球、そして11人制のサッカーと続いた。
単独プレーの種目よりも、チームプレイ、それも多人数であればあるほど、AIの動きは複雑になっていく。
彼はそれらロボットスポーツにおいて、まさに魔法使いのように最強のチームを作っていった。
だが、彼の野望はスポーツで終わるつもりなどなかった。
これはもっと先の話になるが、相手が誰で、場所がどこであろうと、決して負けない、300人を超す最強のロボット軍隊がその名を轟かせる日が来る。
その軍列の最後方に一人の人間がいるらしいが、その姿を見た者は一人としていないそうだ。