いつの頃からか、その国では危険が常に隣にあると、人々の心に深く刻まれ来た。
それは、暴力や犯罪といった人間固有のものの場合もあるし、天変地異や疫病など自然由来のものだったりする。
とにかく、危険と死が日常的に自分のすぐ傍にあると人々は感じていた。
だからその国の人々がまず最初に考えるのは自分の身を守ること。
そのために取った手段が、「鎧」である。
頭のてっぺんから足の先まで、全身を鎧で覆った。男も女も子供から年寄りに至るまで、全身鎧で皆が自分の身を守っている。
そのような慣習がもう100年以上続いていた。
そうなると人間という種族は、鎧そのものになってしまったようだ。
鎧の外見で人を見るようになる。人々は自分の鎧をいかに磨き、飾り付け、個性を出すかに執着するようになった。
身を守るための鎧は、いつしかその人自身のように扱われた。
そして少しでも綺麗な鎧、高級な鎧を求めだした。
その頃からか、人々は鎧に違う意味の重さを感じ始めるようになっていた。
鎧はいつしか、安心感ではなく、苦痛へと変わっていったのだ。
それでも人々は鎧を脱ぐことができない。それを無くせば、もっと恐ろしいことが起きると信じ込んでいるからだ。
しかし、この100年、その国では大災害も凶悪犯罪も起ってはいなかった。
それでも人々は鎧を着続ける。その重さも厚さも日々増していくようだった。