太陽の下で咲き誇っていた桜は、その光を蓄えたかのように、夜の闇の中でも光を放っているかのようだった。
実際には、月に照らされて、どこか青白い光に包まれているように見えているのだが。
それでも桜の美しさは変わらない。
そんな桜の木の下に、集まってくる客がいた。
それはこの地域に住む猫たちである。
昼は人間たちにその場所を譲っていたかのように、今度は自分たちの番だと言わんばかりの顔で何匹もの猫が桜の根本に寄ってきては、上を見上げている。
まるで、人間と同じように花見を楽しんでいるかのように。
だが、人間たちとは違って猫たちは騒ぐこともなく、ただ桜を見上げている。
それはまるで、遠い昔から受け継がれている儀式のようにも見えた。
桜と猫との間で遥か昔に交わされた約束。それを変わることなく守り続けているのだ。どんな約束なのか、それは桜と猫たちの間だけの秘密。
月と猫の間で桜は静かに一枚一枚、その花びらを風に揺らしていた。