人類は自分が見上げるものへの憧れを捨てることはなかった。
それは今の自分より高い位置にある椅子だったりすることもあれば、山の頂だったりすることもある。
山の頂に至っても、そこから空への夢も見始め、そしてさらに上へ―――

今、大地の上に一つの街がある。正確には、今なお成長を続けている発展途中の街だ。
人類は遂に、地球の地面の上だけではなく、火星にもその手を伸ばして開発を始めた。
と言っても、今は火星に人間はいない。
大量に送り込まれた物資を、同じく大量に送り込まれたロボットたちが使い、火星を人間が安心して生活できる場所へと環境を整えていた。
ロボットたちはAIと、太陽から得られるエネルギー供給で、人間の手を一切借りなくても自分たちの判断で仕事を進めている。
地球からの物資と、火星に元からある資源を有効に使い、建築物を作り、空気や水、電気の供給を整え、また建築をしてどんどん街を拡大していく。
最初は村と呼ぶ程度のそれは、街となり、そして都市と呼べるほどのものに近づきつつある。
それでもロボットたちは仕事を止めることはない。さらなる改善、さらなる快適性を求め、日々街の改良を進めている。
全てはいつかやってくる人間たちのために。
だが、人間たちのために、これが彼らロボットの原則であるがゆえに、彼らは気付くことがなかった。
既に、地球は滅び、人類はいなくなっていることに。いや、厳密には一人もいなくなったわけではないのかもしれない。だが、少なくとも宇宙に出るなんてことはもはや不可能になっていることを彼らは知らない。
人類が壊滅した原因、優秀なAIを持つ彼らならいくつもの理由をすぐに出力できるだろうが、それを彼らがすることはない。
これから何十年、何百年経とうと、彼らはただいつか来る人間のために街を作り続ける。
今日もまた、火星の夜に、人がいない街に光が灯る。