その日は、この街で最高の盛り上がりを見せる祭りの日だった。
集まった人々は、互いに笑い合いながら待っている者もいれば、どこか熱い決意をその目に宿して待っている者もいる。子供もいれば老人もいる。それらの人々が街の中央に位置する巨大噴水の広場を初めとする、街の各所に集合していた。
天気はまさに祭り日和の晴れ。太陽の光に街は光り輝いていた。
建物の壁も道も全てが白一色の街。この街は純白に包まれた街だ。
近くにある火山から吹き出る特殊な灰が街の色を白く変えてしまうのだ。
長年この灰に悩まされた住人は、これをなんとかしようとしてきたが、自然という巨大な壁を越えることはできなかった。
そこで発想を変えた。自分たちが悩まされているこれを逆に楽しさに変えてしまおうと。
この祭りに参加している人々が手に手にしているのは絵筆だった。大きさは様々、中には身の丈程の巨大な筆を持っている人もいる。
さらには筆以外の、正直どう使うのかもよく分からない道具を持ち込んでいる者もいた。
今からこの街は、白に悩まされる街ではなく、巨大なキャンバスの街になるのだ。
祭り開催の鐘が辺り一帯に響き渡る。
それと同時に歓声がそこかしこから上がり、人々は街中へと散っていく。
街のあちこちには絵具が用意されていて、それを使って道に壁に、思い思いに色を塗っていく。
ただ楽しむために絵を描く子供もいれば、ここで目立つ作品を描いて世間から注目されようとするアーティストもいる。一人で描き続ける者もいれば、団体で作品作りをする者もいる。
この祭りのルールはただ一つ、子供の絵だろうと、有名人の作品だろうと、他人の絵に対するリスペクトを忘れないこと。自分の絵のために、他人の絵をむやみに上書きしたりしないこと、それ以外は何を描いても自由だった。
祭りは日が落ちても熱が冷めることはない。街の中に灯りが付き、夜を通して人々は色を塗ることに熱中する。
そして再び日が昇る頃、世界一白い街は、文字通りたった一晩で世界一カラフルな街へと変わっているのだ。