パチンと木の枝が火で弾ける音がする。
赤い炎が途切れることなく、その体を揺らしながら煙を天へと送り出していく。
男はその焚火の火をじっと眺めながら、静かにコップに入ったコーヒーを味わっていた。
もう秋も深まり、夜は肌を出すと空気が容赦なく体を震わせてくる。
だが、焚火の火がそれを優しく和らげてくれる。
全身が暖まるわけではない。顔とか手とか一部だけが熱くなりすぎるなど、バランスは悪いがこれもまた焚火のいいところだ。
結論として、キャンプはいいと男は思った。
キャンプとは不便を楽しむもの、というのが彼の持論だ。
だから今回も彼はあえて不便をしてきた。
本来なら魔法使いである彼は、全てを簡単にできるのだ。
キャンプに持って行く大量の荷物も全て魔法で軽量化や、異空間に保管して現地で取り出すということができるのにあえてリュックに全て入れ、それを担いでキャンプ場まで来た。
空を飛ぶこともできるのに歩いてだ。
そして焚火もそう、火を出すなんて初歩中の初歩の魔法も使わず、火打石で草や木くずに付けた種火を、少しずつ育てながら今の形にしていった。
魔法を使わないのは不便以外の何者でもない。だが、彼はそれを楽しんだ。自分は今究極の非日常にいるのだと、心から実感している。
空を見上げると幾万もの星が輝いている。地面から見る星は、いつも空を飛びながら見る星よりも輝いて見えた、ような気がした。