日本の古都、奈良京都。数多くの寺院があり、旅行の定番地として長らく愛されている土地。
その歴史あふれる町の中に、一つの寺があった。
観光ガイドブックにも載らないような普通の古寺。
しかしそこから実に満足そうな顔で出てくる若者がいた。
金髪に青い目をした彼は、傍から見れば日本好きの外国人観光客に見えただろう。
「いやあ、良かったなあ。ここも」
彼は誰かに言うでもなく一人じっくりと自分の言葉を心に刻み込んでいた。
「あの仏像。華やかさはないけれど、そこがいい。あの静かに時間を経てきたことが分かる質感こそに心が落ち着いていくのが分かる」
青年はこの寺に来る前もいくつもの寺や仏閣に立ち寄り、そこにある仏の心にいたく感激していた。
「うん、前々から来たいと思っていたけど来て大正解だった。まさか仏教がここまですごいものだったとは」
ますます熱が入っていく青年の言葉。
その時、わずかに彼の背中と頭の上の空間が揺れた。
それに気付いて彼は自分が我を忘れかけていたことを思い出し、冷静になる。
「・・・気を付けないと」
一応周りを見渡してみたが、特に誰かに気づかれたわけでは無さそうなことに青年はほっと一息をついた。
「それにしても、やっぱり仏教はいいなあ。いっそのこと宗旨替えしちゃおうかなあ。あ、でも頭を丸めるのはちょっとやだな・・・」
すぐにまた仏教に対する自分の想いにふける青年。彼はこのあとも時間の許す限り、寺巡りをする予定だった。
周りの人間には気付かれないよう、その背中にある翼と、頭の上にある輪っかを隠しながら。