「やったー!クラッシュガン出たー!」
「ちぇっ、ビッグガイだ。これ持ってる」
ショッピングモールのおもちゃ屋の前で小学生くらいの子供たちが騒いでいる。
手に持っているのは、開けられた袋と10枚ほどのカード。
トレーディングカードバトルゲーム『ジャスティスオーダー』
数千という数を超えるカードを集め、それらを駆使してバトルをするという、いつの時代でも似たようようなものが存在する子供向けのホビー商品である。
だが、このカードゲームには一つおもしろい試みがあった。
それにはこの世界の社会構造が関係している。
この世界には、ヒーローが存在する。
国家に属する警察や軍とは違い、基本何かの組織に属することなく、個人またはグループ単位で活動している者たち。
原因は不明だが、わずかな確率で、肉体的に強靭な強さを持っていたり、何かしらの特殊能力を持って産まれてくる者たちがいる。
特別な力を持って産まれたきた者たちがヒーローになることが多いが、そのような者たちは時に社会のルールの中では生きづらいと感じることもあり、正義ではなく悪の道に染まる者も少なくない。
ヴィランとなった者たちは、なかなか警察の力では抑えることも難しい。
そこで同じく大きな力を持ったヒーローが必要となってくるのである。
そしてヒーローとは子供たちの憧れの的だ。
そこに注目したとあるおもちゃ会社が発売した『ジャスティスオーダー』
数千以上のカードのうち、約半分はキャラクターカードなのだが、その中に実在するヒーローを使ったカードがあるのだ。
しかも現実の社会で活躍しているヒーローほど、ゲームの中においても優秀なカードとして作られており、さらに今後の現実の活躍如何ではバージョンアップもされる仕様となっている。
このカードゲームには子供たちも興奮することながら、より影響を受けたのが実在するヒーローたちである。
ヒーロー、そしてヴィランたちには共通する暗黙のルールみたいなものがあった。
それは正体を知られてはいけないこと。基本本名は隠し、ヒーロー名と言われる名前で活動している。
ヒーロー活動でお金を得ているのはごく一部であり、基本的に名誉職なのだ。
だから自分自身がカードになり、さらにより強いカードにバージョンアップする可能性もあるとなれば、ヒーローたちはさらに活動に熱を入れることになる。
実際、このカードゲームが流行り始めてからヒーローの数が増えているという調査報告もあるのだ。
そして今ここに、子供たちが出てきたカードに一喜一憂しているその後ろ姿を眺めている男がいた。
彼もヒーローだった。当然、自分の正体が知られてはいけないため、今は普通の一般人にしか見えない恰好をしている。
彼のヒーローネームは『アクアスパイク』
手から水流を出すことができるという特殊能力を持った人間だ。
彼はまだ、ジャスティスオーダーのカードには登場していない新米ヒーローである。
彼は、いつか自分もカードになり子供たちに喜ばれるほど強いヒーローになってみせると、心の中で誓ってその場を去った。
この時はまだ、アクアスパイクもその場にいた子供たちも誰も知る由は無かった。
数年後、ジャスティスオーダーは世界を巻き込み、子供も大人も夢中になるカードゲームになっていることに。
そして、新規カードも増え続け、その中に実在のヒーローだけでなく、実在のヴィランたちもまたカードとして登場することに。
それによって、世界中のヒーローとヴィランの戦いが激化していくことに。