イスーツ地方第3方面遠征部隊。
頻発する怪物による被害に対応するため精鋭たちが集められた。
そこは歴戦の騎士や戦士、このために雇われた傭兵までも混ざった混成部隊だった。
鎧や兜の金属が光を放つ中で、ひと際異質なものがあった。
その人物は白い帽子に、体の上下も白い服に覆われている。そして首元には赤いスカーフ。
体つきも戦士のそれとは比べものにならないほど普通の体をしていた。
だが、今回の遠征で彼こそが一番の重要人物であることは、その場にいるだれもが認めていた。
人間を脅かす怪物は様々な種類がいるが、共通することがある。
一つは巨大な口を持っていること。それにより人間だろうが動物だろうが、時には木や石だって食いちぎり、かみ砕く。
今まで人間たちは剣や槍などの武器で戦ってきたが、それらもたやすく食われてしまっていた。
もう一つは、何でも食べてしまうその怪物たちにも味覚はあるということが判明した。
そこから生まれたのが、アルム・パティシエである。
今この部隊にいる上下白い服に身を包んだ彼もその一人だった。
彼らアルム・パティシエは、ありとあらゆる武器を菓子で作る。
菓子の剣に菓子の槍、菓子の弓。そしてそれらの武器を文字通り食らった怪物は、その美味さに一気に弱体、小型化し、人間取って無害な単なる一動物にまでなってしまうことが分かっている。
だが、そんな菓子武器にも欠点がある。
消費期限が極端に短いのだ。作ってから数時間、長くて一日で怪物に対する威力が無くなってしまう。当然できたてが一番威力が高い。
なので、アルム・パティシエは常に部隊と共に行動し、偵察隊が集めてきた情報をもとに、菓子武器作りのタイミングを見極めなくてはならない。
彼らに求められるのは、そういう状況を見極められる判断力。
怪物が迫っている、何ならすぐ目の前にいようとも菓子を作り上げる胆力。
そして当然、美味い菓子を作る技術力と、使いやすい武器を作る技術力の両方が求められる。
かつて伝説と呼ばれるまでに至ったアルム・パティシエがいた。
その者は誰もが扱える形の武器を作り、そしてそれは小さく、少ない量ながらも怪物たちに大して絶大な効果を発揮した。つまり、とてつもなく美味かったのである。
どんな怪物もたった一口で満足してしまう菓子武器。それを作り出すレシピは今もなお発見されておらず、世界中のアルム・パティシエがそれを求め、または自分自身が新たな伝説を作ろうと日々研鑽を積んでいる。
「南東の方角より接近!数は50以上はいると思われます!!会敵予測は1時間後!!」
突如、偵察隊員からの情報が入り、現場に緊張が走る。
騎士や戦士たちは、すぐに保存されている菓子武器のチェックに走った。
そして彼もまた、既に下ごしらえは済んでおり、後は焼くだけの状態になっている菓子を前に改めてエプロンの帯を強く締めなおすのであった。