敵情視察は重要な任務だ。敵を知り己を知れば百戦危うからずと昔からあるように。
僕は英雄のような力も魔法も持っていない。だが、変装し潜入することにかけてはそれなりであると自負している。
今、この地域で王国軍と対峙しているのは、魔族の中でも精鋭と言われているスケルトン軍団。倒しても倒しても立ち上がり襲い掛かってくる不死の軍勢だ。
現在は両軍ともに拮抗状態になってはいるが、
いつ人間側が崩れてもおかしくない状況だ。だからこうして僕が敵地に潜入し、少しでも
勝利に導くための情報を得ることが任務なのだ。
そして今日、何やらスケルトン軍団員が集まるという情報を得た僕は、魔物の一人として変装しその場に忍び込んだ。
そこで見たものは、想像の域を超えたものだった。
「38番!仕上がってるよ!!」
「上腕骨切れてるよ!!」
「ナイスボーン!!」
その会場に響き渡る。止まることのない大声。
そこは劇場のように舞台と観客席とに分かれ、観客席側は照明が落とされていて暗い。その代わり舞台上はこれでもかといわんばかりに光で照らされていた。
そして舞台上にいるのは、横一列に並ぶスケルトンたち。
各々が数字が書かれたワッペンを身につけ、両腕を上に上げたり、足を前に出したりしてポーズを取っている。
何かのパフォーマンスのようだが、それを一通りやり終えると、また次のスケルトンたちが出てくる。
舞台の上方には『ボディビル大会』と書かれた看板が掛けられていた。
ここに出ているスケルトンたちは選手のようなもので、それぞれの体を観客に見せているのは分かる。
どのスケルトンたちも、まあ体がでかい。というより骨が太い。
骨太という言葉はあるが、あれはどちらかというとしっかりしているという比喩に使われるが、ここでは文字通り見たままだ。
(それにしても・・・)
僕が困惑しているのは、どう鍛えたらそんなに骨が太くなるのかという選手たちのことではなく、観客の方だ。
「骨が輝いてるよ!雪のような純白!」
「肋骨で家建てれそう!!」
「カルシウムのお化け!!」
それぞれが大声で舞台に向かって声を投げている。
一応声援なのだろうが、これは応援になっているのだろうか?
だが、舞台の上の選手も、そして観客も一体となって会場全体がどんどんと熱を帯びていっているのがはっきりと人間の僕でも感じられた。
ここに我々人間を追い詰めるこいつらの秘密が隠されているのかもしれない。
そう思い、その後も大会を最後まで僕は見守った。
そして、全てのプログラムが終了し、満足気な表情で会場を去る観客に混じって僕もその場から離れる。
周りに他に誰もいないことを確認し、変装を解いてから持っていた手帳に今日あったことの情報をまとめる。
そして最後に、これらの情報から今後の人間と魔物の戦いがどうなっていくのかを自分なりに考察した言葉を書いて、今回の諜報活動は終了した。
手帳には『よく分からん』とだけ書かれた。