「またここか・・・」
これで何度目だろうか。もはや見慣れたこの場所に来るのは。
だが私の意志で、私の足でここに来ているわけではない。
まるで何かの仕掛けが発動するかのように、それまでどこにいたとしても、一瞬気が遠くなったと感じた次に目を開けた時にはここにいる。
その仕掛けが発動する条件として考えられるのが、私が非常に困った時ということだけだ。
今もまた、私には難問が立ちふさがっいた。
私は世界を自由気ままに旅をしている。
そんな折、たまたま立ち寄った村でトラブルに遭遇したのだ。
その村は、頻繁に来るゴブリン等の小型魔物の襲撃に悩まされていた。
作物や家畜に被害が出ている。しかしゴブリン達を追い払おうにも村人に武芸の経験がある者は少なく、怪我人も後を絶たない。
しかも村にはそんなに金に余裕があるわけでもないので、戦士や魔法使いを用心棒として雇うこともできない。
私は一人で旅をしていることもあってそれなりに剣を使える。この村の人たちも、私のようにたまに訪れる旅の者に頼んで魔物への対処をしているらしいが、私としてもずっとここにいるわけにはいかない。一度くらいは手を貸してもいいが、それでは焼石に水だ。
ここの村人達だけで何とかしなければならないのだが、既に八方手を尽くした状態だ。
どうしようかと考えた時に、私は一瞬気が遠くなった。そしてここにいるのである。
ここは不思議な空間だ。何かの建物であることは間違いないが、外に出るための扉は無い。
さらに床も壁も天井も、何で出来ているのか分からない。石でも木でもないことは確かだ。
そして、ここに並べられている大量の棚。その棚の一つ一つに物が所狭しと置かれている。
とりあえずここが何かの店だということだけはなんとなく見当がついた。
この広い空間、大量の物。そして壁に書かれた文字。
その文字を私は見たことが無い。それなのにそれが模様ではなく、文字だと不思議と理解できた。
それに加え、なぜかその文字を読むことができた。
「ホームセンター・・・」
文字を読むことはできるが、何度考えてもその意味までは分からない。ホーム?家?何を意味しているのか。
おそらくだが、この場所のことをホームセンターと呼ぶのだろう。私はそう割り切ることにした。
それよりも重要なのは、このホームセンターという店に並べられた品物のことだ。
どれもこれも見たことも聞いたことも無い物で溢れている。
いや、正確には分かる物もある。
例えば、料理に使う包丁や鍋の類も置いてあるが、私の知っている物とはかなり違う。それらのどれもがおそらく金属で作られているのは分かるが、私の知識にあるどの金属よりも薄く、軽く、それなのに頑丈に作られている。
そして木の板などに打ち付ける釘等も置いているが、数えきれないほどの種類があり、しかもその一つ一つが寸分違わぬ形で作られている。人の手でこんなことが可能なのだろうか。
その他にも、火を使わないのに光を発する謎の筒や、一度くっつくとなかなか離れないベタベタする帯、そもそも何を目的にしたのかさえ分からない物も大量にここにはある。
そのどれもが魔法使いたちの操る魔法の道具、いや、それすら超えて、神々の伝承の中にだけ登場するアーティファクトのように思えた。
だが、私は特別に魔法の力も神の加護も持っているわけではない。しかしここにある数々の品を私は自由に持ち出すことができる。
これまでもここに来た時は、ここにある物を使って困難を乗り越えてきた。本来の使い方かどうかは分からないが私なりに工夫を凝らしてきた。
今回もそれをする時だということ。ゴブリン共、魔物の脅威に苦しむ人々を救うため、ここにある物を利用しろと誰かが私に言っているのだ。
それが誰なのか私には分からない。神かもしれないし、もしかしたら悪魔かもしれない。
だが私に今できることをやろう。
まずはあの村人たちを助けることだ。
魔物達の襲撃に対してはまずは何か防御のための柵か壁のような物や罠を作れるといいかもしれない。そのためには向こうに置いてある整った木材や釘、それにさきほどのベタベタくっつく帯、見たことないが読める文字で『ダクトテープ』と書かれたあれが使えるかもしれない。
大切なのは、ここにある物で何ができそうか考えることだ。
私は思考を回転させながら、この空間内を歩き出した。