side S
「雅紀さん・・・おかえりなさいませ。」
「翔・・・お前今日、菊池が来たそうじゃないか。どういうことだよ。」
「え・・・」
潤にチクられたのではとドキリとする。
でもそんなはずはきっとない。
潤は菊池がレイプしそうになったということを黙っておいてくれると約束してくれた。
潤が俺に嘘を付くはずがない。
「わたしの痛めつけられた身体を心配して、自分のせいだと謝罪してくれました。」
「それだけか?」
「はい。それだけです。」
「潤から聞いたけど?」
「え?」
ギクリとする。
「書類と名刺。」
「あっ」
そっちか・・・
ホッと胸をなでおろす。
「今、俺に嘘をついたな?」
「違います。忘れてただけです。」
「へぇ〜」
雅紀さんがイラッとした顔をした。
それと同時にいつも見せる俺への『人形扱い』の顔・・・
「佐々木〜!」
しばらくして使用人がやって来る。
「雅紀さま、お呼びでございますか?」
「今日、翔がさ?夜は庭で寝たいって言い出すんだ。」
「え?・・・ですが雅紀さま・・・今は12月。夜は冷え込みます。」
「仕方ないだろ?本人の希望なんだから。だよな?翔?」
「・・・いえ・・・っ・・それは」
キタキタ。
雅紀さんが俺を支配する時間・・・
俺は困った顔をして
イジメられて辛いけど耐えてる顔をして
雅紀さんの心を縛る。
本当は
俺にとってこれは『ごっこ遊び』に近い。
そう思っている俺はドMなのか・・・
いいや違う。
雅紀さんが俺だけをイジメるこの瞬間が俺は好きなんだ。
「翔は好きなんだよなぁ?寒空の中、外で一晩過ごすのが。そうだろ?翔?返事は?」
「雅紀さん・・・そんな・・・
許してください・・・」
「許す?・・・何を?
勝手に俺のいない時に菊池を入れたこと?それとも書類や名刺を受け取ったことを黙ってたこと?」
「ど、どちらもです。
もうそんなことはしませんので・・」
顔を歪めながら許しを請う。
元天才子役だった俺の演技が雅紀さんに見抜かれることは決してない。
「誓えるか?」
「はい。本当に申し訳ありませんでした。」
「じゃあわかってるよね?お仕置きのこと。」
「・・・っそん、な・・」
「まぁそれはケガがある程度治ってからね?くふふ」
ほら優しい・・・・
悪そうな顔して笑うけど、結局は優しい。
そんなのいいのに。今すぐ無茶苦茶に抱いてもらってもいいのに・・・
だから俺は逆に従順を装い
雅紀さんの支配力を煽る。
「今夜は、やっぱり庭で寝ます。雅紀さん・・・おやすみなさい」
「は?!」
「雅紀さんが・・・そうおっしゃるなら・・・わたしは・・雅紀さんの言いつけ通りにするだけの存在ですので・・・
庭で・・・寝させていただきます・・・」
「・・・・・ふん!
勝手にそうしろ!!!・・・まぁ、毛布一枚なら持参許可を出してやってもいいぞ。」
「ありがとうございます!」
結局その日・・・
俺は庭に行った。
そして毛布1枚を被って寝たフリをしていると
雅紀さんがそっと抱きかかえてベッドに連れて行ってくれた。
抱きかかえて運ばれながら願う。
雅紀さん・・・ずっとずっとこうしてて。
俺を支配しながら
俺のことを構って?
俺だけに向けられる雅紀さんの想いは・・・
ただのストレス解消でいい。
はけ口にしてる対象として見てるだけでいい。
なんでもいいから
だから
俺をいつまでも・・・操り人形として
そばに置いて。