「相葉っ!」

気付けば、三宅さんに強く抱き締められていた。

「しっかりしろ!」

その声だけが遠くで聞こえる。

俺は何も返せなかった。




翔。



翔。




頭の中はそれだけだった。



「違う・・・」

小さく呟く。

「翔じゃない・・・」

三宅さんの腕に力が入る。

「相葉。」

「翔じゃない・・・」

「相葉!」

何度呼ばれても。

耳に入らない。



ただ

あの日、船に乗ったまま遠のいていく翔の笑顔だけが浮かんでは消えていく。




「・・・帰るぞ。」

三宅さんが静かに言った。

腕を掴まれる。

俺は抵抗する力もなかった。

いつ署を出たのか。

どうやってタクシーに乗ったのか。

覚えていない。

車は静かだった。

ラジオもついていない。

エンジンの音だけが聞こえる。

窓の外の景色は流れていくのに。

時間だけが止まっていた。





「・・・違う。」

また呟く。

「翔じゃない・・・」

三宅さんは何も言わない。

赤信号で車が止まる。

握られてる手に力がグッと入るのを感じた。
・・・手を?握られてる?



・・・何もかもわからない。



しばらくして

車は俺のマンションの前で止まった。

「降りられるか。」

返事ができない。

ドアが開く音。

「ほら。」

肩を支えられながら部屋へ入る。



鍵を開けたのも
靴を脱いだのも

全部、三宅さんだった。

ソファーに座らされる。

俺は俯いたまま動けない。




「水。」

ペットボトルを差し出される。

受け取れない。

震える手を見て。

三宅さんはキャップを開け、そのまま俺の口元へ持ってきた。



「少し飲め。」



一口だけ飲むと
冷たい水が喉を通る。




それでも

胸の苦しさは消えなかった。



「・・・翔」




その名前が漏れた瞬間。

三宅さんがゆっくり俺の前にしゃがむ。




「相葉。」



俺は焦点の合わない目で三宅さんを見る。



「まだ決まったわけじゃない。」

「・・・」

「だから。」

「・・・」

「そんな顔するな。」

「・・・できない。」

かすれた声だった。

「できないよ・・・」

「三年間・・・」

全身が震える。

「やっと・・・」

「やっと会えると思ってたのに・・・」




三宅さんは何も言わない。

ただ
俺を見ていた。
その目は苦しそうだった。
やがて小さく息を吐く。




「・・・俺」

その声は震えていた。

「お前を、こんな顔にしたくない。」

ゆっくりと俺の頬へ手が伸びる。

「今だけ。」

「・・・」

「今だけでいい。」

「俺を見ろ。」

その言葉に顔を上げる。

目が合った。

次の瞬間だった。

三宅さんが逃げる間も与えずに俺の肩を強く引き寄せる。

そして、唇を奪うように重ねてきた。

一瞬の躊躇もなく、押し込めるような強引なキスだった。

「っ!!!」

息が詰まる。

時間が止まる。




ドンッ!



入らない力でなんとか押すと
三宅さんはすぐに離れた。

その顔には
いつもの余裕なんて欠片もなかった。



「・・・悪い。」

苦しそうに笑う。

「今のは忘れろ。」

そう言ったのに

もう一度

俺を強く抱き締めた。




「頼むから。」

かすれた声が耳元で震える。

「一人で壊れるな。」

「・・・」

「お前が壊れたら・・・俺まで苦しくなる。」




その腕は

驚くほど強くて

驚くほど優しかった。




「いや。やっぱり『今のは忘れろ』って言ったこと、撤回する。」



三宅さんの息遣いが乱れてることも
気付けなかった。




「今夜一晩お前を抱くよ。俺は悪者になってもいい。俺を言い訳にして現実から逃げろ。」






なにをどうすればいいのかわからず




ベッドに連れて行かれた事も・・・

あまり意識がなかった。