14時丁度にKちゃんが来た。
彼も眠れていないのか、顔に生気がないのに無理して笑っているように見えた。

頼んでいた充電器や着替えをてきぱきと配置して、
飲み物を冷蔵庫に詰め込んでくれた。
ここでひとまず生活できる状況と、Kちゃんがこの部屋にいるという状況が、私をひどく安心させた。

Kちゃんからは、家でお留守番している犬の状況を、私からは体調と加瀬亮に言われた陣痛と中絶の話をした。
でも、希望は絶対捨てたくないと。
たくさん食べてたくさん飲んで羊水と赤ちゃんを育むんだと。


泣きじゃくる私の手を何度もさすりながら、ひたすら慰めつづけてくれた。

Kちゃんが、家族に報告の電話をしに病室を出てすぐ、助産師さんがやってきて、大丈夫ですか?と言われた。何について大丈夫と聞いているのだろうと思ったら、

「旦那さんから、陣痛のことで不安になっていると伺いました。少しお話しましょうか?」

と言われた。
さらに、しばらく病室に付き添いで泊まれないかとのことなので今問題ないか確認しています、どうにか泊まれるようにしますねと。

助産師さんが中絶について詳しく説明してくれたのも、質問に全て答えてくれたこともそうだが、Kちゃんの心配りが本当にありがたかった。

この人と結婚できて、この人との赤ちゃんがお腹にいて、これ以上の幸せなんてあるだろうかと思った。

そんな想いを噛み締めていたとき、Kちゃんが、暗い顔で戻ってきた。
先生にエコーは明日と言われたらしい。

その際、破水が止まっていても、羊水は増えないから赤ちゃんに障害が残る可能性高いし、私も感染症の危険があるから、どちみち中絶の道を選ぶことになると言われたそうだ。

え?
明日エコーをします。
だけど、どちみち中絶です。

それってエコーの意味ある?
どうゆうこと?

希望はもうないってこと?

混乱する私に、Kちゃんが諭すように言った。

「優先させなきゃいけないのは、エリカの体だよ。明日のエコーで絶望的だったら、週明けまで待たないで中絶のお願いをしよう」

分かってる、分かってる。
私があなたでも絶対そう言う。

だってあれだけバシャバシャ羊水出たんだもん。
残ってないし増えなかったらもうやりようがない。

でも、だけど。。


うえ、うえ、と子供のように泣きじゃくることしかできなかった。

「寧々と宗は、天国に忘れ物をとりにいくだけだよ」
「またすぐ戻ってきてくれる」
「そのためにも早く体元気にしよう」
「寧々と宗も、今お腹で苦しがっているかもしれない」

泣いても泣いても涙が止まらない。
赤ちゃんに対する申し訳なさと、悲しさと寂しさとがごちゃ混ぜになって、押し潰されそうだった。

もう、1%の可能性もないんだ。
希望はなにもないんだ。

でも。

「でも、明日のエコーで奇跡が起きるかもしれない」

分かっていても、やはり諦めきれなかった。
短期間だが、私もお母さんだったようだ。


やりたいようにすればいいと思ったのか
彼もそう思ったのかは分からない。
ただ、Kちゃんも、頷いてくれた。


無意味かもしれないが、ご飯をたくさん食べた。
飲み物もガブガブ飲んだし、ベッドの上ではひたすら左側を向いて寝た。
お笑いのYouTubeを見て、たくさん笑った。
笑うと体にいいことだらけ的な番組を見たことがあったから。

夜、Kちゃんのベッドが届いた。
ベッドといっても簡易も簡易。
担架に布団をのせただけのような代物で、幅が肩幅くらいまでしかなかった。
寝返りをうつとギシギシ言うので、二人で笑った。


その日の夜は、二人で色んな話をした。
お腹に二人で手をあてて、赤ちゃんに来てくれてありがとうと言った。
もしだめだったとしても、泣いてばかりだと赤ちゃんにが安心して天国にいけない。
体調がよくなったら、海外旅行にいったり、美味しいものを食べたり、幸せなことをたくさんしようと言ってくれた。

中絶の話をされたときよりも泣いた。