20歳くらいのころ、住宅メーカーの営業をしていた話しです。

 

直属上司にとても気にいられていました。

 

週2~3はお酒に付き合わされていました。

 

 

 

 

「中和田、お酒は好きか?」

 

明らかにお酒好きな上司だったので、NOとは言えなかったのです。本当は苦手でした。できたら飲みたくなかった方です(今は少量を楽しんでます)

 

「はい!好きです!」

明るく、なるべく爽やかに答えました。嫌われたくなく、お酒好きな上司に合わせました。

 

 

 

「中和田は酒好きだから参っちゃうよ~オレの財布がドンドン軽くなっちゃうよ~」とは言いつつ、楽しそうです。

 

なんせ僕は、上司にめちゃくちゃ合わせていたからです。横暴で気の短い上司に、最新の注意を払い合わせていました。

 

本当はお酒が苦手。当時は酒場も苦手。横暴な上司も苦手なのに、いつの間にか「上司に酒をせびる、ちゃっかり者の部下になっていました」

 

 

 

僕の部長に対する協調性は完璧で「部長大好きな、ちゃっかり者の中和田。その中和田を一番弟子のように可愛がる部長」と周囲も見るようになりました。

 

「中和田、山本譲二は好きか?」

部長の山本譲二好きは、既にリサーチ済みです。

 

僕は合わせました。

「あ!めちゃくちゃ好きです!」

 

飲み屋に行くと、必ず「みちのく一人旅」を唄うはめになりました。

 

「中和田はカラオケが好きだからな~ママ!中和田にみちのく一人旅入れてやって!」

 

カラオケは下手なので苦手でした。山本譲二さんは、好きでも嫌いでもありません。

 

「めちゃくちゃ好き」と言ってしまった手前、他の曲も覚えなくてはいけない。僕は大して興味のない山本譲二のCDを買いました。

 

 

 

部長は、他の部署の部長が嫌いです。しょっちゅう悪口を言っています。

 

僕は、好きとか嫌いの前に、よく知りません。

 

それでも部長に合わせます。

「◯◯部長って最悪ですね!それに比べて部長は…」

 

分かりやすい誉め言葉が大好きな部長なので、分かりやすい褒め方をしました。

とにかく負けず嫌いなので、◯◯より上ですよ!が、一番嬉しい上げ方。

 

 

 

部長は若い頃ボクシングをしていました。

 

お酒が入ると、昔ノックアウトした話しを何度もします。何度も。

 

内心「これ始まると長いんだよな」と思いつつ、セオリー通り身を乗りだし聞きます。

 

「でな、一瞬ガードが下がった瞬間、野生の血が出たんだろうな…無意識に左が出たんだよ」

 

「え!どんな感じですか!どんな感じですか!」

 

「中和田も好きだな~」

苦笑いしたふりの部長ですが、嬉しい空気感を隠しきれません。

 

場末のスナックで、手取り足取りボクシングの真似。

 

はち切れんばかりの腹をした部長と、ゴマスリ上手な僕の、なんとも茶番なボクシング劇。

 

 

 

何故そこまでゴマするのか?

 

住宅メーカーで、僕はアポイントを取る役割です。とにかく一日中、社宅やアパートを回るのです。「話しを聞いても良いですよ」という人を探すという、単純作業を繰り返します。

 

部長は、僕がアポイント取った人に交渉する役目です。

 

部長はかなり強引な交渉をする人ですが、成約率は高かったのです。

 

 

 

2500万円の家が一軒売れると、利益は250万ほどだったと記憶しています。

 

そこから歩合が入りました。一軒売ると、15万~30万くらいの歩合が入るのです。基本給は別にあるので、20歳だった僕にとっては、かなり高給をもらっていました。

 

僕は、アポイントまでは取れても、交渉はまだまだ無理でした。

 

 

 

部長は人の好き嫌いが激しく、嫌いな部下の交渉はやる気無さそうでした。

 

実際、他の部下が取ってくるアポイントは、成約にならないことがありました。

 

僕が取ってくると

「よし!中和田が頑張ってんだから、一丁決めてやるからな!」とか言って、栄養ドリンクとか飲んでました。

 

ちょっと可哀想なくらい詰められて、もう疲れて契約した人もいるかと思います。

 

振り返ると、本当に気の毒なことを契約者にはしたと思っています。

 

僕がゴマするのは、そんなところからでした。

 

 

 

僕と同じ年齢の同僚Aがいました。

Aは部長から明らかに嫌われていました。その感情は日に日に大きくなるようで、今で言うパワハラみたいなものでした。部長からいつも怒られ、本人のやる気も失せているようでした。

 

ある日、その部長が僕に言いました。

 

「Aは片親だからやっぱりダメだな。躾がなってない。あいつと違って中和田は育ちがいいから付き合いやすいよ」

 

胃がギューっと痛くなりましたが、何も言えませんでした。

 

せめてもの反抗は、頷かなかったこと。部長の言葉に強調しなかったこと。

Aは大切な同僚でした。

 

「片親だからとか」「学歴無いからとか」、そういう言い方する人がとても嫌いです。それは今も変わらなく、どうしても腹が立ってしまいます。

 

 

 

そんな嫌いな人のゴマスリする自分は、もっと嫌いになりました。自分でいることが気持ち悪いくらい嫌いになりました。

 

そして数ヶ月後、僕はその会社を辞めました。30年前の給料ですが1/3くらいに下がりました。でも、本当にスッキリしました。

 

自分嫌いになった15歳〜27歳の期間に入っています。この経験も、さらに自分が気持ち悪くなる経験でした。

 

お金のために、自分のポリシーを誤魔化したということが、とても自分を傷つけました。

 

「協調性ない人が好き」は、こんな経験からも来ています。たとえ嫌われても、自分のポリシーを曲げない。迎合しない人。

味方によっては頑固で融通がきかない不器用な人。そんな人が好きです。

道ひらきセラピスト・中和田收

 

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